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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第15回

本当はいらない「個人情報保護法」

2008年05月06日 16時30分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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個人情報という資産


 他方、ウェブ上の情報はどんどん無料化し、課金によるビジネスモデルは成り立ちにくくなっている。ほとんどの新聞サイトは無料になり、広告料しか収入源はないが、それも検索広告などとの競争で、黒字を出すのはむずかしい。

 こうしたビジネスで注目されているのが、購読を登録するときの個人情報だ。例えば、ダイエット専門のウェブサイトに登録した読者の個人情報をダイエット食品のメーカーに売れば、サイトの収益源になるだろう。しかし現在の法律において個人情報を第三者に提供するには、読者ひとりひとりに同意を得なければならない。

 読者の立場から見ると、こういう関連商品の広告が迷惑な場合もあるだろうが、役に立つこともある。アマゾンの「お気に入り」で関連する商品を買うのと同じだ。迷惑な広告を拒否するルールさえ作れば、名前やメールアドレスぐらいの個人情報が流通することは、メリットのほうが大きいだろう。



個人情報保護法の改正を


 個人情報を行政が「保護」すると称して厳重に規制し、行政処分まで課す現在の法律は、1980年代にできたOECDのプライバシー8原則を元にしたものだ。そのころは、個人データベースは「大型計算機センター」の奥のコンピュータで集中管理されていた。そんな「古代」にできた条約を、世界中の10億台以上のコンピュータがインターネットで結ばれ、情報が分散共有される時代に法制化したことが時代錯誤なのだ。

 ここまで自主規制が過剰になった現在では、個人情報保護法は廃止してもいいと思うが、少なくとも第23条(第三者提供)と第25条(削除義務)は廃止し、第56条以下の罰則もなくして努力規定だけにすべきだ。情報産業を活性化するには、むしろ個人情報を市場で流通させて、個人の好みに合ったきめ細かいサービスを提供する必要がある。その場合、個人情報を第三者に提供して企業が得た利益を個人に分配する仕組みや、個人が情報提供を拒む権利も必要だ。

 このように個人情報を一種の資産と考え、財産権ルールで個人情報を有効利用するシステムは、ローレンス・レッシグも提唱している。今やウェブで企業が囲い込むことのできる情報は、顧客情報ぐらいしかない。それによって価値を創造することは、情報が限りなく無料化するウェブでビジネスを成立させる新しいチャンスではないか。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。


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