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ベストセラーがビジネスの未来を創る 第13回

フルコースではなく、アラカルトを目指せ

2008年04月01日 00時00分更新

文● ビジネス書評家・土井英司

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本連載では、ビジネス書評家・土井英司が、毎月のビジネス書ランキングを分析し、現在のベストセラーから未来のビジネストレンドを解説する。

フルコースではなく、アラカルトを目指せ

2008年3月 ビジネス書ベスト10

1位脳を活かす勉強法
2位効率が10倍アップする新・知的生産術
3位「1日30分」を続けなさい!
4位地頭力を鍛える
5位「残業ゼロ」の仕事力
6位100%幸せな1%の人々
7位自分を浄化する方法
8位「朝30分」を続けなさい!
9位スタバではグランデを買え!
10位「1秒!」で財務諸表を読む方法

ランキングの詳細▼

 みなさんこんにちは、土井英司です。突然ですが、約1年間続けてきたこの「ベストセラーがビジネスの未来を創る」は今回で終了となります。次回からは今話題の新書の中から、みなさんのビジネスに役立ちそうなものをセレクトする新コーナーが始まります。楽しみにしておいてください。

 さて、最終回となった今回は、2008年3月のランキングと、ビジネス書ランキング過去1年間のトレンドに共通する大テーマについて述べたいと思います。

 その大テーマとは、ズバリ「情報過多によるダイジェストニーズ」です。

情報の文明学

著者:梅棹忠夫
出版社:中央公論新社
価格:720円(税込)
ISBN-13:978-4122033986

 これまでの連載を通して、薄いビジネス書が好まれるようになっていることや勉強本のニーズが高まっていること、さらにワークライフバランス本が注目されていることなどに言及してきました。

 これらのテーマは、一見異なるテーマのように見えますが、実は同じ原因から発生した、当然のニーズだったのです。この本質を、かつて情報化について予言した民俗学者の梅棹忠夫氏の名著『情報の文明学』がよく表しています。

「情報の時代には、情報の批評家ないしは解説者が不可欠である」

 つまり、情報が氾濫することによって、消化し切れなくなった人たちが、もっと消化するために効率のいいやり方を学んだり(『効率が10倍アップする新・知的生産術』)、優先順位を決めたり(『レバレッジ・リーディング』『「1秒!」で財務諸表を読む方法』)、疲れてワークライフバランスを求めたりする(『「残業ゼロ」の仕事力』『自分を浄化する方法』)。

 それに伴って、ベストセラーも生まれてきたのです。

 ただそのためか、疲れた人々が刹那的になり、大きくレバレッジを掛けた金融商品などを好むようになり、リスクの大きい取引を勧める投資本を求めます(『私のFXバイブル』『マネーはこう掴む』)。

 結果として現在、日本で借金をする人の数は膨大な数となっており、このまま行けば、ジャーナリストの堤 未果氏が格差社会の悲劇を描いたベストセラー『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波書店)のような悲惨な状況にならないとも限りません。

人生の流儀

著者:城山三郎
出版社:PHP研究所
価格:1155円(税込)
ISBN-13:978-4569698052

 では、一体どうすればいいのか。それは、分不相応のものや、目に入るものすべてを手に入れようとしないことです。

 最近編纂された故・城山三郎氏の名言集『人生の流儀』(PHP研究所)にこんな言葉が載っていました。

 「あわてて読んで、ふり回されることはない。放っておいて、くさるものはくさらせる。情報氾濫の社会であれば、『省く』ことを心がけないと、身を亡ぼす」(『わたしの情報日記』より)

 そう、これからは「省く」ことがビジネス書のトレンド。だからこそ、ダイジェスト版が流行るのです。

 すでに世の中に出ている知識のダイジェスト版やエッセンスだけを抽出したいいとこ取りの実用書。情報過多によって判断力を失った現代の若者たちには、これがウケるのです。

 みなさんの会社が提供しているサービスのなかにも、フルコースからアラカルトに変えた途端に売れる物がきっとあるはずです。ぜひ考えてみてください。

 次回は5月にスタートする新連載でお会いしましょう!

【ダイジェストニーズによるベストセラー】

■効率のいいやり方を学ぶ
『効率が10倍アップする新・知的生産術』 勝間和代(ダイヤモンド社)

■優先順位を決める
『レバレッジ・リーディング』 本田直之(東洋経済新報社)
『「1秒!」で財務諸表を読む方法』 小宮一慶(東洋経済新報社)

■ワークライフバランスを求める
『「残業ゼロ」の仕事力』 吉越浩一郎(日本能率協会マネジメントセンター)
『自分を浄化する方法』 矢尾こと葉(かんき出版)

■リスクの大きい投資本を求める
『私のFXバイブル』 田平雅哉(ダイヤモンド社)
『マネーはこう掴む』 藤巻健史(光文社)

2008年3月 ビジネス書ランキング

2007年3月 ビジネス書ランキング

1
脳を活かす勉強法
茂木健一郎(PHP研究所)
2
効率が10倍アップする新・知的生産術
勝間和代(ダイヤモンド社)
3
「残業ゼロ」の仕事力
吉越浩一郎(日本能率協会マネジメントセンター)
4
「1秒!」で財務諸表を読む方法
小宮一慶(東洋経済新報社)
5
「1日30分」を続けなさい!
古市幸雄(マガジンハウス)
6
地頭力を鍛える
細谷功(東洋経済新報社)
7
100%幸せな1%の人々
小林正観(中経出版)
8
自分を浄化する方法
矢尾こと葉(かんき出版)
9
黄金の扉を開ける賢者の海外投資術
橘 玲(ダイヤモンド社)
10
いつまでも「老いない脳」をつくる10の生活習慣
石浦章一(ワック)
11
私のFXバイブル
田平雅哉(ダイヤモンド社)
12
STUDY HACKS!
小山龍介(東洋経済新報社)
13
カンブリア宮殿 村上龍×経済人
村上龍(日本経済新聞社)
14
スタバではグランデを買え!
吉本佳生(ダイヤモンド社)
15
学校の勉強だけではメシは食えない!
岡野雅行(こう書房)
16
世界一やさしい問題解決の授業
渡辺健介(ダイヤモンド社)
17
マネ-はこう掴む
藤巻健史(光文社)
18
知識ゼロからの経済学入門
弘兼憲史(幻冬舎)
20
英語は逆から学べ!
苫米地英人(フォレスト出版 )
19
決算書の暗号を解け!
勝間和代(ランダムハウス講談社)

(日販オープンネットワーク調べによるビジネス書に絞ったランキング。集計期間は2008年3月1日~3月31日)

土井 英司 (どい えいじ)
ビジネス書評家 / 出版マーケティングコンサルタント / メルマガ「ビジネスブックマラソン」編集長
慶應義塾大学総合政策学部卒。日経ホーム出版社を経て、2000年にAmazon.co.jp立ち上げに参画。 ビジネス・実用書の「陰の仕掛け人」として、『ユダヤ人大富豪の教え』(本田健・著、40万部突破)を始め、数々のベストセラーのきっかけを作った。近著に『「伝説の社員」になれ!』(草思社)がある

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