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著作権シンポジウムで議論

パロディー同人誌は、原作者への「愛」だ

2008年04月17日 12時00分更新

文● 斎藤温、広田稔/トレンド編集部

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グレーゾーンはホワイト化せざるを得ない?


 パロディーの話に関連して、著作権のグレーゾーンについても盛り上がった。

 コンテンツビジネスでは、パロディーも含めて「法律では禁じられている行為を、現場レベルでは黙認してやっている」という状況が往々にしてある。竹熊氏は、出版分野の現状をこう説明した。

竹熊氏 グレーゾーンは放っておいても出てきてしまう。僕の実感では、編集や作者といった現場は法律を理解していなくて、ほとんど出版社によって異なる「慣習」によって動いている。


 ただ、そうしたいいかげんなところに救われている部分もある。僕はこの仕事を25年やっていて、本を出す前に出版契約を交わしたことは一度もない。逆に言えば、最初に契約書を書くと「縛り」にもなるから、原稿が締め切りに間に合わなかったときでもそこに救われる。現状がいいとは思わないけど、現場は非常にフレキシブルに動いている。


 野口さんは、そうしたグレーゾーンのうち、解消できる部分はルール化していくべきと語る。

野口さん 音楽のリミックスや同人誌の世界は、お互いに様子を見ながらやっている部分が大きい。グレーゾーンだとは言ってるけど、出るところに出るとブラックになってしまう。でも「上手くいってるからいいじゃん」ではなくて、法律に書いてあるルールが現実からずれているというのは健全な状態ではない。


 例えば、まったくお金を生まないような、自分が写り込んでいる写真が載っているから出版を差し止めろ、というのはさすがにやりすぎではないか。そうしたグレーゾーンについては、明確に「白」にしていく努力が必要だと思う。


 田村氏は、グレーゾーンを法律化することの難しさを指摘しつつも、今はルール化していかざるを得ない状況だと言う。

田村氏 今までは、著作物の個々の利用が軽微で、捕まえにいこうとしても(物理的に調べるのが)大変だったから、グレーゾーンが社会規範として守られていた。そういう状態なら、グレーのままにしておいたほうがいい。


 なぜならグレーをホワイトにしようとして立法に上げると、誰が悪いというわけではないが、組織的に動くがゆえにブラックにする方向の意見が入って来て、社会で守られていたグレーの状態よりも少しブラックよりのルールができあがってしまう。それならばグレーのままにしておいたほうがいい。


 他方で今は、ネットがそうであるように、物理的な制約がなくなって、個人の利用を抑えることができるようになってきた。社会規範としてグレーゾーンを守れなくなったなら、ホワイトにする動きを作らざるを得ない。


 評論家の山形浩生氏は、グレーゾーンは永遠になくならないと言う。

山形氏

山形浩生氏

山形氏 マンガの同人誌、音楽のDJやヒップホップ、サンプリングなど、新しいものはいつもグレーのよくわからないところから生まれてくる。新しいものを作ろうとしている人たちは、(著作権で)想定していない利用方法で、これまで考えられなかったものを作ろうとしている。


 これからの技術の進歩でさらに新しい表現が出現すると、同時に新たなグレーゾーンも発生するだろう。そうなると、今ここで議論されていることは片がついているか、みんな「どうでもいい」と思ってウヤムヤになっていると思う。


 現在、グレーゾーンにあるパロディー同人誌は、変わろうとしている著作権によってどんな影響を受けるだろうか。いずれにせよ、その解決の難しさを浮き彫りにしたシンポジウムだった。


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