パッチングのギミックは絶対入れたかった
── さきほど、最初に聴いた出音が素晴らしかったのでイケると思った、という話がありましたが、シーケンサーやカオスモードなど、そこに足されたものがたくさんあるようです。鍵盤とパッチがあればいい、という考え方はなかったんでしょうか?
岡宮 アナログシンセサイザーをいじったことがない人にもこの世界で遊んでもらいたい、という思いがありました。それと、曲を作れるところまで行かないと商品としては難しいかな、と。
佐藤 MS-10の魅力を最大限に引き出すためにはシーケンサーがあったほうがいいと考えました。そして、ドラムマシン。その音もMS-10で、という佐野さんの愛情に脱帽です(笑)
── パッチングの要素はどのくらい再現されているんですか?
佐野 (ツマミの並んでいる)普通のシンセの部分だけでも音作りはできるんです。なのでパッチングはアドバンスモード的な立ち位置ですね。下段はLFOで、上がモジュレーション。つまり下から上に信号が行くと決まっていて、シンセを知らない人でも理解できるはずです。ぶっちゃけていうと、パッチングにする必要はないといっちゃあないんです。でもこれがまたいい。オヤジキラー。
── 議論はなかったんですか? ムダだからやめようっていう。
佐野 まったくない。なんとかしていれよう。これはいれないとダメですよ、と。開発は苦労していますけど。
キャビア・古林 いちばんがんばったところです(笑)。
── VCO(音の元になる発振器)が2つずつ入ってますね。つまり、音源はMS-10じゃなくて、上位機種のMS-20相当ということですか?
佐野 フランクフルトのミュージックメッセで展示したときに、その点をオジサマたちから突っ込まれました。これはMS-10じゃない!って。なんで怒られてるんだろボクは? と思いながらもうれしかったですね。
子供こそ、すんなり理解してくれるハズ
── シンセ世代のおじさんたちはすぐにこの価値を理解できそうです。シンセの値段に比べればとても安いですしね。でも、DSユーザーの中心である子供たちにも面白さは伝わるんでしょうか。
佐野 フランクフルトでは最終日が一般公開で、家族連れで来ている人も多く見かけました。
そうすると、DSってのは不思議なもので、子供が寄りつくような怪電波を発している。最初はわけが分からないようなんですが、カオスモードにしてあげると、ずうっとグルグルやってるんですよ。ぼくらが考えている以上に直感的に接してくれる。
だからあとは接する機会を増やすことができればいいと思います。全国の学校をDS-10を持って回って、教室中を電子音で埋めたいですね。
── アナログシンセって、音の成り立ちを学習するには、難しいところもあるけど、一番いいですよね。DS-10はそういう使い方ができる。
佐野 シンセっていうのは理科と音楽の接点にいるじゃないですか。なんにも考えないでいても面白いんですけども、理科の部分も分かったほうが、自分のイメージする音に近づける。それは、ぼくが中学生のころMS-10を買ったときと同じ。理屈がわかれば分かったなりに面白い。
── 通信機能はどういうふうに使うんですか?
佐野 シンプルな通信を考えています。二通りあって、ひとつは合奏。1台からの指示にあわせて、複数台が同時にそれぞれ持っているパターンを再生します。ひとつをピッと押しただけで、全部が鳴り始める様子はすごいです。かわいらしいし、壮大だし。もうひとつはセッションと呼んでいるデータの固まりを交換する機能です。
── 相当長時間楽しめそうです。
佐野 ハードウェアシンセからソフトウェアシンセに変わったとき、PCのなかでシンセを触ることで没入感が生まれたと思うんですけど、これにはもっとすごい没入感がある。アタマ(額を指さして)からDSへパッチケーブルが伸びてるような感覚。企画当初はそんなことがここまで強く起こるとは思ってなかったんですが。
── それはDSというメディアの性質なんでしょうかね。
佐野 このパッケージなんですかね。この限られた空間のなかで、しかも、タッチペンじゃないですか。音を直接触っているようなこの感覚をぜひみなさんにも体験してほしいです。