分かりやすい「具体的なメリット」を提示せよ
この経産省のプロジェクトを、民間はどう見ているのか。定例会の後半では、中小企業の実情に詳しい関係者によるパネルディスカッションが行なわれた。パネリストは、安田氏に加え、ビジネスオンライン代表取締役社長の藤井博之氏、ピー・シー・エーの専務取締役である折登泰樹氏、そして梅田公認会計士事務所所長の梅田泰宏氏。モデレータは週刊BCN編集長の谷畑良胤氏が務めた。
冒頭、谷畑氏が「実際に話を聞いていると、『ITはいらない。会計士に丸投げすればいい』というのが多くの中小企業の実情ではないか」と問題提起した。
これに対して経産省の安田氏は、「『費用が高い』『IT担当者がいない』『効果が見えない』といった中小企業のIT化の問題は、SaaSによって解決できる」と回答。「まずは、会計力や経営力をつけて、中小企業の生産性を向上させなければ、その次のIT活用はない」と話した。
すでに中小企業向け会計サービスを展開しているビジネスオンラインの藤井氏は、中小企業向けSaaSに必要な要素として、「圧倒的な便利さ」を挙げる。「インターネット上で単に会計ができる、というだけでなく、『知らない間に得をしている』といったメリットがないと中小企業には広がらない」。
クライアントとして多くの中小企業を抱える税理士・会計士の梅田氏も藤井氏と同じ意見。「メインバンクに対してSaaSで決算データを直接開示する。その代わりに金利を優遇する、といった交渉ができてもいいのではないか」(梅田氏)。加えて、「会計事務所の業界は保守的。一度会計ソフトのベンダーと付き合うと、なかなか変えることはない。会計事務所に対してもSaaSを利用するようなメリットを打ち出していただきたい」と注文をつけた。
こうした意見に対して、安田氏は「ユーザー、税理士の双方にメリットがあることを考えていきたい」と話す。すぐに着手できる施策としては、「ITリテラシ向上のための研修支援」が挙げられるという。そのほかの施策についても、今後、国税庁などと連携して検討していくとした。
一方、会計ソフト大手 ピー・シー・エーの折登氏は「ユーザーのことはもちろん、パートナーのことも考えないといけない」と話す。「ビジネスモデルを一気に変えてしまうと、パートナーの経営を圧迫しかねない」からだ。
安田氏は「多くの方に利用してもらうため、多様性を許容する方針だ」という。「販売はベンダーのチャネルを活用していただいてかまわない」というのが同省の基本的な考え方だ。
「オール・ジャパン体制」でプロジェクト成功へ
「中小企業の生産性向上を上げて、経営力をいかに高めるかというのが大目標だ」と話す安田氏。プロジェクト成功のためのキーワードは「つながり力」だという。
「ベンダーにご協力いただき、しっかりとした技術基盤を整備したい。そして、ベンダーとユーザー、専門家がしっかりシステムを通じてつながること。さらに、経産省だけでなく、国税庁や中小企業庁ともつながって分かりやすいシステムを作っていく。“オール・ジャパン”の体制で成功させたい」――。果たして、安田氏が語る意気込みどおりの展開となるか。SaaSという“目新しさ”だけでなく、実効性のある施策としてのプロジェクトの成功に、注目が集まる。