補償金は著作権料の「二重取り」だ
補償金を取ること自体は、必ずしも悪くはない。例えば、英国の音楽団体BMRが提案しているように、補償金を取る代わりに、著作権の許諾を止めてコピーフリーにする、という提案はありうる。似たような制度は、米国の反著作権団体EFFも提案しており、著作権の処理を煩雑にしている許諾権を廃止するなら、こういう方向の改革は考えられる。
しかしCulture Firstの主張しているのは、著作権法は現状のままで、補償金を電機メーカーから取れという話だ。これはロイヤリティーの二重取りである。おまけにDRM(デジタル著作権管理)で私的複製も制限しようというのだから、消費者は三重の負担を強いられることになる。
DRMで著作権を保護するなら、すべて契約ベースにして包括ライセンスにすればよい。民法の「契約自由の原則」は著作権法に優先するので、そういう契約は当事者が合意すれば今でも可能だ。クリエイティブ・コモンズのような電子ライセンスも技術的に実現している。
補償金を認める代わりにコピーフリーに
先週は「ネット法」なるものをデジタル・コンテンツ法有識者フォーラム※という団体が発表したが、その内容は「ネット権」を流通業者に集中させて創作者の権利を奪い、しかもネット権者が許諾権を持つというのだから、著作権法の改悪だ。
※デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム 大学教授や経営者などの有志が集まった民間の研究団体。17日、ネット上のスムーズなコンテンツ流通を促す特別法「ネット法」(仮称)の創立を提言した(関連記事)。
しかし、彼らの提案で評価に値するのは、権利関係が複雑になってその処理コストの高さがコンテンツの流通を阻んでいるのだから、権利を集中させて権利処理を簡単にしようという発想だ。その最大のボトルネックは、フォーラムの提案者でもある角川歴彦氏を含む、隣接権者を過剰に保護している現在の著作権法にある。
著作権法の権威、中山信弘氏(東大教授)も言うように、情報を「単なる『もの』としか見ない」でその所有権を主張し、おまけに二次利用、三次利用まで禁止する非常に強い権利を多くの権利者に与えている著作権法が、権利処理を複雑にしているのだ。権利を集中するなら創作者にし、その権利を流通業者に売却したあとの二次利用は自由にすべきだ。
福田内閣のキャッチフレーズは、「消費者中心」の行政だそうだから、著作権法の所管を「業者中心」の政策ばかり出してくる文化庁から「消費者庁」に移し、ユーザー中心の著作権行政に転換してはどうだろうか。しかもYouTubeを見れば分かるように、消費者は今や創作者でもある。著作権を補償金のような報酬請求権にしてコピーフリーにすれば、日本のコンテンツは世界に広がるだろう。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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