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海の上でもブロードバンド!?――「さんふらわあ ふらの」で船上インターネットを体験してきた

2008年03月24日 15時00分更新

文● 編集部 小西利明

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 光回線やADSLの急速な普及と、携帯電話系通信サービスの高速化により、「いつでもどこでもブロードバンドインターネット接続」が実現されつつある日本。都市部では自動車や鉄道での移動の最中でも、高速なインターネット接続が利用できる環境が整いつつある。

しかし、陸上を離れた船や飛行機の上では、陸上と同じようなブロードバンド接続を利用するのは困難なのが現状だ。ところが船や飛行機は、鉄道や自動車に比べれば乗っている時間も長い。暇つぶし、あるいは時間を有効に使うためにも、機上や船上でブロードバンド接続が使いたい……。そんな願いを実現してくれるサービスが、「メガウェーブマリン」である。去る21日、茨城県大洗町の大洗フェリーターミナルにて、実際にフェリーの上でこのサービスを体験してみる企画が行なわれたので、船好きの記者も体験してきた。

さんふらわあ ふらの

「メガウェーブマリン」の体験会が行なわれた「さんふらわあ ふらの」。商船三井フェリーが運行する、大洗~苫小牧間を往復する4便の1隻

 体験会が行なわれたのは、商船三井フェリーのフェリー「さんふらわあ ふらの」。大洗と北海道苫小牧を結ぶ航路に就航している船だ。全長192m、総トン数1万3539トンの大型船で、大洗~苫小牧間を19時間程度で結んでいる。体験会は停泊中の船上で行なわれたのだが、当日の21日は発達した低気圧のため海上は大荒れ。幸い雨は止んだものの、台風並みという荒波が沿岸にまで押し寄せる状況で、当然ながらフェリーは欠航となっていた。

 幸い、波は防波堤で遮られていたため、港内の船は安定していたが、もし波が港内に入る向きであれば、岸壁に停泊するのは危険(波にあおられてぶつかる)なため、岸壁から離れた洋上に停泊していただろうとのことだった。その場合は体験会も中止されていたわけで、記者としては不幸中の幸いといったところか。

大洗港近くの海岸に立つ「神磯鳥居」

大洗港近くの海岸に立つ「神磯鳥居」。高さ5mもある鳥居だが、当日は打ち寄せる荒波が鳥居を飲み込むこともあるほどの大荒れで、とても船が航行できる状態ではなかった

下りは最大3Mbps! インターネットに適した船舶用通信


 体験会に先立ち行なわれたサービスの説明会では、通信に利用する衛星を運用し、メガウェーブマリンをサービス提供するJSAT(株)と、メガウェーブマリンのシステム開発を担当したNTTワールドエンジニアリングマリン(株)(NTTWEマリン)の担当者による、サービス概要の説明が行なわれた。

 従来、民間船舶がデータ通信を行なう際には、(株)NTTドコモ系の「ワイドスター」か、衛星による移動体通信を提供する企業「インマルサット」社(国際移動通信衛星機構)系(日本での提供はKDDI)の、2種類の衛星による4方式の通信インフラが提供されていた。

既存の船舶用データ通信インフラ

既存の船舶用データ通信インフラ(NTTWEマリンの資料より引用)。実効通信速度で言えば、アナログモデム並みかそれ以下の速度。しかも従量制だから、インターネットの利用には向かない

 しかし、これらはいずれも送信速度が4.8~64kbps受信速度は9.6~64kbps程度という、アナログモデム並みの速度が限界だった。そのうえ通信費用は時間あたりかパケットあたりの従量制で高額。このインフラの貧弱さと高コストが、船舶のIT化と業務効率化を阻む要因であったという。そこで地上におけるADSLのように下り帯域だけでも高速なMbps級のインフラを用意することで、船舶を企業のネットワークの一部として運用可能にするというのが、メガウェーブマリンの目的である。

 下の図はメガウェーブマリンの回線イメージ図である。まず、船からインターネットへの登りの通信は、前述の既存通信インフラを使用して行なう(さんふらわあ ふらのではインマルサットのFleetパケット型 28kbps)。登り通信は船上のアンテナから通信衛星を経由して地上施設に送信された後に、横浜にあるJSATの施設(YSCCテレポート)に専用線経由で送られて、そこからインターネット(あるいは顧客企業のイントラネット)に出て行く。

メガウェーブマリンの回線イメージ図

メガウェーブマリンの回線イメージ図。登りは既存インフラだが、下りはJSATの高速な回線を利用して、最大3Mbpsの通信が行なえる

 インターネットから船に送信すべきデータは、一旦YSCCテレポートに送られて、そこのアップリンク設備からJSATの通信衛星「JCSAT-4A」に送信される。そして衛星から個々の船舶に対して、最大3Mbps(ベストエフォート)の速度でデータを送るという仕組みだ。下りと登りでまったく別の衛星回線を利用するインターネットに適した通信方式の採用が、メガウェーブマリンの特徴である。

 JSATの通信衛星を使えば、登りも高速になるのでは……と誰しも考えるところだ。しかし、衛星を自動追尾する機能を持つ送信用アンテナの価格が非常に高い(千万円単位)ため、比較的安価にブロードバンド接続を実現するメガウェーブマリンのコンセプトからは外れてしまうということだ。メガウェーブマリンの初期費用は船により異なるが、さんふらわあ ふらのの場合は、船内のシステムも含めて600万円程度で実現できたという。

 メガウェーブマリンの大きな利点のひとつは、通信コストの安さ。従来の衛星通信インフラがいずれも従量制であるのに対して、メガウェーブマリンの下り回線は月額5万8000円の定額制となっている。登りは既存インフラなので、完全な定額制とはいかないが、データ量の大きな下り回線で、通信コストを気にせず利用できるのは大きな利点であろう。現在メガウェーブマリンを利用している船舶は25隻。JSATは今後5年で200隻の利用を見込んでいるという。

 次ページではさんふらわあ ふらのの船内と、船上体験会の模様をお届けしよう。

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