ITを自前の武器として調達する重要性
――Googleのビジネスモデルは他のITベンダーと全く違いますね。
亦賀氏:そのとおりです。しかし、Googleがビジネスサービスを提供し始めたらどうなるか? 彼らは明日にでも金融サービスをはじめたとしても不思議ではありません。海外ベンダーは軒並みそのリアリティーを感じながら、危機感を持っているでしょう。
――Googleのエンタープライズは今のところ、コンシューマ系で培った技術を応用します、と言ってるけど、実はコンシューマ向けのサービス展開こそが、エンタープライズ系にサービスを始めるためのβテストみたいな側面もありますよね。みんながGoogleの企業向けのテストをやらされているみたいな。
亦賀氏:ビジネスモデルが違うからこそ、ITベンダーは戦々恐々としていますし、彼らは彼らで、それぞれのモデルに行き詰まりを感じているのも事実でしょうね。
だから、新しい競争は事実上はじまっているんです。その競争に備えて、IBMやオラクルは、どんどん企業を買収しています。昨年、彼らによっていくつものビジネスアプリケーションベンダーが買収されました。なぜ買うのか? 彼らは地球規模でどうやって競争に勝つのかを真剣に考えていますから、「企業が成長するために必要なものは買ってそろえてしまおう」と考えている。
サービスとしてハードやOS、ソフトウェアも一体で提供する以上、上のレイヤーでビジネスをしないと儲けていけないからです。下のレイヤーだけでお金を取れる時代は終焉すると思って行動しています。
――だからこそ、ビジネスアプリケーションに力を入れる?
亦賀氏:そうです。その上でサービスをデリバリーして、お金を儲ける仕組みに変えなければならないのです。
――日本のユーザー企業はおんぶに抱っこが好きだから、データセンターにすべてのシステムが入っているサービスが提供されれば、それを歓迎するんでしょうね。でも実際には、グローバルのITベンダーはそれより先を見ている。
亦賀氏:ITベンダーが必要なサービスを必要なタイミングで提供できるようになれば、多くの企業において、自社でデータセンターを持つ必要すらなくなるわけです。
――究極の分散というか、会社がシステムを分散させるのではなく、会社のシステム自体がインターネットという“クラウド”の中に分散してしまってるような状態ですね。
亦賀氏:サービスを提供する側の論理としては、そのとおりです。ただし、本当に世界で勝ちたいと思っている企業は逆の展開をするでしょう。世界を相手にビジネスをするにはITを手放すと言う選択はありえません。ITを自前の武器として調達して勝つんだという発想を持つはずです。
――ITを武器とするというのはどういうことでしょう?
亦賀氏:中国最大の金融機関である中国工商銀行ですが、ここは個人口座数で1億7000万という巨大な銀行です。これだけでも日本のゆうちょ銀行と三菱東京UFJ銀行を足した数より多いのに、しかし、彼らは現状の規模に満足せず、さらに3億人くらいの口座を欲しがっています。
彼らはITを武器として使うことを公言して、IT戦略そのものもオープンにしていますし、ユーザー企業でありながら、ITに関するR&Dに莫大な予算を投入している。世界を相手に、何億という口座を扱おうとすれば、ITに頼る以外には方法がないからです。話を少しメインフレームに戻すと、彼らはそのためのシステムにメインフレームを利用しています。
国内では時代遅れのもののように語られがちなメインフレームですが、その認識を改める必要があるわけです。