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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第8回

時価数兆円!? 「電波利権」をめぐる密室の談合

2008年03月18日 09時00分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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数百MHzが数兆円産業を生む!?


 日本の電波は、このVHF/UHF帯以外にも、ソフトバンクが返却した1.7GHz帯とIPモバイルが倒産して返却した2GHz帯が空いていて、合わせると20MHzとなる。それ以外にも、MCAなどの業務用無線や地域防災無線など、割り当てられたまま使われていない周波数が、少なくとも1GHzはある。

 これらの帯域を、どういった用途にどのような技術で使うかは、2.5GHz帯のときのように企業にまかせればいい。例えば、当時は世界標準になると見られていたモバイルWiMAXも、最近は雲行きが怪しくなるなど、無線技術は急速に変化しており、企業でさえ最適の技術を決めるのは難しい。まして役所が技術を決めるのは不可能だ。

モバイルWiMAX WiMAX(ワイマックス)は、Wi-Fiよりも長距離で高速な通信が可能な無線技術規格。そのWiMAXを高速移動体通信用に活用したものがモバイルWiMAXになる

 米国では今、700MHz帯の周波数オークションが行なわれており、グーグルが落札すると見られている。これは用途も技術も自由なので、まったく新しいイノベーションが期待されている。日本で現在、携帯電話が使っている周波数は全部で200MHz程度だが、それでも10兆円産業に膨れ上がった。空いている数百MHzを効率的に配分すれば、新たに数兆円産業が生まれ、日本経済の「成長力」を高めるエンジンとなろう。



オープンな審査による「ビッグバン」を


 このために重要なのは、まず政府に勝者を決めさせないということだ。多様な企業に自由に参入させて、勝負は市場における競争で決めるべきだ。今回のVHF帯の場合も、最初は64件もあった提案を行政が「一本化」して6件に絞り込み、その中でも放送局の提案したISDB-Tmmに誘導する方向で進められている。メディアの政治力は圧倒的に強いので、「最初から結論は決まっていた」というのが大方の見方だ。

 せっかく2.5GHz帯では、初めての美人コンテスト(比較審査)をやるところまで進歩した電波行政が、今度の懇談会では一本化工作という名の「官製談合」に逆戻りした。本来は欧米のように周波数オークションで決めるべきだが、それが無理でも、せめて残った6方式で公開審査をすべきだ。

 またUHF帯でも、少なくとも60MHzは空くことになっているのだから、VHF帯とあわせて割り当てを決めるのが望ましい。最も理想なのは、1.7GHz帯や2GHz帯も含めて、一括審査して帯域を割り当てるビッグバン方式だ。この方式なら各社が、自社に最適の帯域を選んで競争できる。

 用途も技術も、最初はバラバラでかまわない。IPさえサポートしていれば相互運用性は確保できるし、競争に敗れた企業を買収できる第二市場を作れば、おのずと事実上の標準は決まるだろう。モバイル市場は、中国も含めて急速にグローバル化している。国際競争で勝ち残れる企業を選ばなければ、日本の通信機器業界は壊滅するだろう。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



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