このページの本文へ

【SaaSキーパーソン・インタビュー】 ビジネスオンライン 代表取締役 藤井博之氏

SaaS・ASPはインフラ化されたソフト。 「電気メーター」のようであるのが理想

2008年03月27日 12時00分更新

文● アスキービジネス編集部

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

中小企業のIT化を促進する「切り札」として各方面からSaaS・ASPにかかる期待は日増しに大きくなっている。SaaS・ASP型会計処理システム「ネットde会計」の提供を行ない、中小企業向けのサービスの分野でパイオニア的存在であるビジネスオンライン。同社の代表取締役 藤井博之氏にSaaS・ASPが中小企業のIT化に果たす役割について伺った。


中小企業に「ソフトを買う」感覚はない


ビジネスオンライン株式会社 代表取締役 藤井博之氏

ビジネスオンライン株式会社 代表取締役 藤井博之氏。日本IBMのシステム開発業務に携わった後、大前研一氏ならびにベンチャーキャピタルの出資を受けて2000年3月にビジネスオンライン株式会社を設立。同時に日本初の中小企業向けSaaS・ASP型会計処理システム「ネットde会計」の提供を開始、同シリーズのユーザー数は現在8万社を超える。平成19年度情報化月間促進貢献企業等表彰では「情報化促進部門」においてSaaS・ASPベンダーとしては初の経済産業大臣賞を受賞

ビジネスオンライン株式会社 代表取締役 藤井博之氏

インターネット会計システム「ネットde会計」

インターネット会計システム「ネットde会計」

 日本の中小企業のIT化が遅れているのは事実ですが、それは事業の根幹を支える会計業務をIT化できていないことに原因があると考えています。たとえば20名以下の企業の場合、4割程度しか会計ソフトを導入していません。

 いったい彼らはどうして会計ソフトを買って使わないのでしょうか? 理由はいろいろありますが、一番大きいのは、会計という業務自体を「やらされている」と感じていることかと思います。頭の中できちんと数字を把握できていれば、やる必要はない。だから会計業務は納税のため、あるいは借り入れのために「やさられている」。そういうふうに感じているのですね。本音ではやりたくない業務なのですから、わざわざ会計ソフトを買ってきてPCに入れる、という発想や行為に結びつくわけがありません。

「パッケージを買ってPCに入れる」という感覚が薄い以上、会計処理のIT化を促すには電話や水道のようなインフラとしてソフトを提供するしかありません。当社のSaaS・ASPサービスは、事業を開始した2000年からそれを実現するサービスを指向しています。つまり、当社ではSaaS・ASPをインフラのように提供されるソフトだと定義しています。インフラとして会計システムが提供されるのであれば、その理想像は、100%自動化されていて、銀行のデータもEコマースのデータも全部勝手に取り込んで処理してくれるものでしょう。何をせずとも常に正確な会社の数字を指し示してくれる、まるで電気メーターのようなものですね。ただし電気メーターに高いお金は支払いたくないから、利用料金は安くする必要があります。こういった仕組みを当たり前にしていけば、中小企業のIT化はずいぶん進むという手応えを持っています。


会計ソフトが世界にたったひとつだけになる日


 当社のSaaS・ASPにはもうひとつ、開発の費用対効果が悪すぎる日本のSIerへの提案、という意味もあります。顧客ごとに同じようなシステムを開発するのは無駄です。SaaS・ASPのように、ソフトの共用化や統合化を進めていけば、開発への投資効率が高まりますし、結果的にユーザーの負担も軽くなるはずです。つまり各社のSaaS・ASPをコンポーネント(部品)化し、それらを組み合わせるというビジネスモデルへ変えていくということです。顧客数×単価で計算しなければならないパッケージソフトとは根本的にビジネスモデルが異なります。

インターネットに接続されたPCさえあれば、Webブラウザのみで 簡単に会計処理を始められる

インターネットに接続されたPCさえあれば、Webブラウザのみで簡単に会計処理を始められる(画面クリックで拡大)

 SaaS・ASPの普及を加速するには、パッケージソフトをただWebに乗せ換えたものではなくて、ITが社会のインフラとして機能していくための手法だという認識をSaaSベンダーやSIer、そして国が共有していくべきではないでしょうか。インフラとして突き詰めれば、全情報システムの接続や統合がSaaS・ASPの最終目標になります。会計システムであれば、より電気メーターに近づくこともできます。中小企業の会計処理の半分はほぼ銀行の出納処理ですが、ここはインターネットバンキングと連携します。例外は現金の会計処 理ですが、レジのPOSのデータがありますよね。あれは売る側のデータですけど、買った側のデータでもある。それを取り込めば、現金の会計処理も自動化できるはずですよ。ソフトのインフラ化、統合化が本当に進めば、全世界が共有する会計ソフトがたった一つあればいい、という地点に行き着くかもしれないとまで私は考えています。

「ネットde 会計」は、ネットを介して企業と税理士・会計士の双方が入力・チェックできる経理システム。銀行、取引先、現金決済のデータを自動的に取り込み、電子申告までシームレスに行えるシステムを目指す

「ネットde 会計」は、ネットを介して企業と税理士・会計士の双方が入力・チェックできる経理システム。銀行、取引先、現金決済のデータを自動的に取り込み、電子申告までシームレスに行えるシステムを目指す(画面クリックで拡大)


中小企業のSaaS・ASP活用をテーマに活発な議論と情報を交換する場も用意


「SOABEX研究会」

「SOABEX研究会」

ビジネスオンライン社は数社のSaaSベンダーと共同で中堅・中小企業のSaaS・ASP普及をめざす研究会「SOABEX研究会」も主催している。企業から個人まで参加でき、SaaS・ASP業界のキーマンが多数参加する定例会では毎回イベントを実施。事前情報は同研究会のWebにて告知されており、3月19日には2008年の第2回目を実施している。

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード