多国籍企業からグローバル企業へ
実は、マイクロソフトの岐路は22年前にあった。当時、マイクロソフトの極東地域の総代理店はアスキーで、その副社長だった西和彦氏がマイクロソフトの副社長でもあった(関連記事)。1986年、ビル・ゲイツCEO(当時)は日本に100%出資の現地法人を作り、西氏にその社長になるよう求めたが、西氏は拒否した。
もし、このときマイクロソフトがアスキーを現地法人とし、日本に合わせた戦略を進めていたら……というのは今となっては無意味な想像だが、マイクロソフトがいま苦闘しているのは、そうした現地化である。それは彼らのビジネスの重点が、ソフトウェアからサービスに変わったからだ。
同じような変化を、一足先に経験した企業がある。IBMのパルミサーノCEOは2006年、インドのバンガロールで株主説明会を開き、「各国に本社のミニチュアのような現地法人をつくるのはやめ、バンガロールにソフトウェア開発拠点を、中国の深センに調達拠点を、ブラジルのリオデジャネイロに財務拠点を置く」という方針を明らかにした。
「19世紀は貿易の時代、20世紀は多国籍企業の時代だったが、21世紀は企業の各部門が国境を超えて機能分担する時代になる。IBMは、そういう真のグローバル企業になるのだ」とパルミサーノ氏は宣言した。
「Don't be evil!」
この新しいグローバルなビジネスでは、マイクロソフトの閉鎖的な企業戦略は、各国に敵を増やすだけだ。21世紀のグローバル企業に必要なのは、各国の文化にあわせてオープンに情報を共有する企業文化である。
それは皮肉なことに、彼らの最大のライバル、グーグルの合言葉だ──「邪悪になるな」(Don't be evil!)。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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