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柴田文彦の“GUIの基礎と実践” 第7回

柴田文彦の“GUIの基礎と実践”

日本語入力の生い立ち

2008年04月19日 11時00分更新

文● 柴田文彦

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外国製パソコンと国産パソコンの違い

 Mac標準の日本語入力ソフトが実用レベルに達したのは、ここ数年のこと。それ以前には、「ATOK」や「egbridge」といったサードパーティー製の日本語入力プログラム、これらはFEP=フロントエンドプロセッサーと呼ばれることが多かった──を購入し、標準ソフトに代わるものとしてインストールして使うのがなかば常識となっていた。日本語入力プログラムは、早くからいわばプラグイン式となっていて、アップルでもサードパーティー製ソフトが導入しやすいようなインターフェースを提供していたことになる。

 それに対してWindowsでは、比較的早い時期から日本語入力プログラムが実用域に達していた。Windowsは、'91年に登場したWindows 3.1あたりから本格的な導入が始まり、'95年のWindows 95で爆発的に普及した。そして、そのころすでに日本語入力ソフトは比較的高いレベルに達していた。少なくとも名前だけは今と同じ「MS-IME」も、Windows 3.1の「日本語入力システム」の選択肢として実装されている。

 Macの場合にはハードウェアもOSも米国製で、初期の段階ではまず米国市場を第一のターゲットとして開発が進められたことは確かだ。そのため日本語への対応は、どうしても後手に回らざるを得なかったのだろう。初期のMacが開発された直後に、英字の代わりに半角のカタカナを表示可能にした特殊なシステムも開発されたが、本格的な日本語対応にはほど遠いものだった。そのあとは、アップルよりも早く(株)エルゴソフト(当時)がMac用に「EGBridge」(当時のつづり)を開発し、英語システムとアプリケーションの上で日本語の表示と入力を可能とした。

 アップルは、そうした動きにあと押しされるように、システムレベルで日本語を扱えるようにした「漢字Talk」を開発したのだった。その漢字Talkも徐々に成熟し、日本語以外の言語も扱える「World Script」へと進化した。それに伴って、日本語入力ソフトの部分は「ことえり」と呼ばれるようになった。'92年に登場した漢字Talk 7では、「入力」メニューといわゆる「えんぴつ」メニューに分かれているものの、基本的な構成は現在とあまり変わっていないことに驚かされる。

 Windowsの場合には、Windowsが登場する以前から、もともとは米国型ながら実用レベルで日本語が使えるようになっていたDOSをベースにしたことが、特に初期の段階からスムーズに日本語対応できた大きな要因だった。開発元のマイクロソフト(株)は当時はソフト専業メーカーであり、'80年初期のDOS時代から日本のパソコンメーカーに日本語の扱いが可能な基本ソフトを納入していたのだ。

 日本語入力ソフトをプラグイン方式で追加・交換できる仕組みは、DOSやWindowsでも早くから実現していた。そのためサードパーティー製のプログラムと競合する形で、純正プログラムであるMS-IMEも進化を重ねてきた。こうした歴史の長さは、現在でも機能の差として表れている部分がある。強力なカスタマイズ機能もその一例だが、マウスを使った日本語の手書き入力をサポートする「IMEパッド」など、Macとはひと味違った機能もある。

Mac OS

Mac vs Win

初代のMacが登場した直後には、半角カタカナを表示可能にすることで日本市場に対応しようとする試みもあったが、すでにそのレベルで許される時代ではなかった

Mac vs Win

アップルが正式にMacを日本語化したのは、'86年に登場のMac Plusを日本市場に導入するために開発した「漢字Talk 1.0」だった。最初は手探りの未成熟なものだった

Mac vs Win

'92年登場の「漢字Talk 7.1」は、日本語だけでなく世界各国の言語に対応する「World Script」の一部として実装された。日本語入力機能は「ことえり」と呼ばれた

Mac vs Win

漢字Talk 7.1からMac OS 9までは、「入力」メニューと「えんぴつ」メニューは独立していた。これを統合したのが現在の「入力」メニューだが、機能はほとんど変わらない


Windows

Mac vs Win

'91年に登場したWindows 3.1の「日本語入力システム」の選択・設定ダイアログ。インストールされている複数の日本語入力プログラムを切り替えて使えるようになっている

Mac vs Win

Windows 3.1には日本語のTrue Typeフォントも導入済みで、Windows標準の日本語フォント「MS明朝」「MSゴシック」も実装していた

Mac vs Win

Macで言えば「文字パレット」に相当する「IMEパッド」には、手書き入力機能も備わっている。読めない文字でもまねて書くことで入力できるのは、時として非常に便利だ

(MacPeople 2008年4月号より転載)


筆者紹介─柴田文彦


著者近影

MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。


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