月刊アスキー 2008年4月号掲載記事
今年11月に行われる次期米国大統領選挙へ向けた候補者選びが、民主・共和両党ともに過熱している。民主党候補のヒラリー・クリントン氏、バラク・オバマ氏両上院議員をはじめ、各候補者による熱戦が、連日伝えられている。今回の米大統領候補者指名争いと、前回(2004年)とでは大きく違う点がある。それは、インターネットを使った選挙運動が目立ったことだ。実際、テレビや新聞といった既存メディアから、YouTubeなどの動画共有サイトに政策提言の場が広がっている。
2007年の参議院選挙に出馬したビデオジャーナリストの神田敏晶氏は、米国のネット選挙運動について「時間や場所を気にせず、候補者の主張、対立候補との政策の違いがわかるのは、有権者にとって有益。今後、ますます広がっていくでしょう。さらに、注目すべきは、選挙運動にSNSが利用されていることです」と語る。神田氏のブログでも紹介されているが、民主党のオバマ候補は16、ヒラリー・クリントン候補も5つのSNSを使い、選挙運動を展開している。米国では既に、ネットの特性である双方向性を活かし、有権者との対話を実現している。
一方、日本はどうか。ブログや、メールマガジンの定期配信を行っている政治家は、ほんの一部だ。なかなか更新されないホームページも少なくない。なぜ、日本では、ITと政治がうまくかみ合わないのだろうか。それは、現行の公職選挙法の基準があいまいで、ブロードバンド時代に合致するように法整備がなされていないからだ。たとえば、公職選挙法では「文書図画の頒布」という規定があり、インターネットもそれに該当するというのだ。これは'96年に、当時の自治省(現総務省)が「不特定または多数の方の利用を期待してインターネットのホームページを開設することは頒布にあたる」という見解を示したことが根拠となっているようだ。ただし、ディスプレイ上に表示し、常に公衆の目に触れている状態では「掲示」となり公職選挙法には抵触しないのだという。ネット選挙運動の制約を疑問視している一部の政治家を除けば、「頒布」か「掲示」かで選挙管理委員会などと揉めるよりも、何もやらないということを選択する方がリスクがないのだ。当然、インターネットを使った政治的な運動は自ずと消極的にならざるを得ない。
では、ネット選挙運動の解禁で、日本の選挙は変わるのだろうか。神田氏は「現在、日本の選挙運動は、新聞に多くの広告を出稿したり、運動員を多く動員するなど、お金が掛けられるほど有利になるのです。しかし、それは不公平な状態」だと言い、インターネットを経由した選挙運動の自由度が増せば、選挙運動資金の多寡に関わらず、政策や政治家個人の資質で当選できる可能性も高いという。既に、次の総選挙ではネット選挙運動が事実上、解禁になると見られている。そうなれば、政治家との対話がいっそう近いものになるだろう。