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日本の技術を持ち腐れにするな

佐々木俊尚が語る「未来の検索」

2008年02月14日 09時00分更新

文● 編集部、語り●佐々木俊尚(ジャーナリスト)

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プライバシーの問題にどう対応するか?


── ライフログやパーソナライズには個人情報の収集が必要です。これはプライバシーの問題と表裏一体になると思うですが。

佐々木 プライバシーに関しては、アノニマイズ(匿名化)するというのがひとつの解答になると思います。例えば、データとして処理する際には、個人情報から「佐々木俊尚」や「ID:1234567」……といった情報を抜いて処理する。完全なアノニマイズを実現する上では難しい面もありますが、方向性のひとつとしてはあると思います。

 一方で医療情報などに関しては、情報共有を進めたほうがいいという意見もあります。ガンになった人の医療情報は同じような病気で苦しんでいる人にとって有益なデータになりうるので、アノニマイズした上で情報は共有し、オープンにしていくべきだと思います。

 これは現在進行形の議論で、簡単に答えは出ません。個人情報を守れと声高に叫ぶのはカンタンだが、それでは済まない状況もあります。



── 住基ネットのときにはあれだけ個人情報の保護を訴えたマスコミが、匿名性の議論ではとたんに個人情報を公開すべきという論調になる。これはおかしな話です。

佐々木 住基ネットは名前と住所しか分からない。確かに「個人情報」を扱っていますが、それが「プライバシー」なのかというと難しい。もちろんストーカー被害につながる可能性があるとはいえ、データとしての価値はほとんどありません。

 名簿などを取り扱っている業者に取材すると、一番価値が高いのは消費者金融の利用状況とか、ポルノを買っている人の情報だという。金もうけにつながりやすいためです。しかし、住基ネットのような情報では、その人がどんな趣向を持ち、どんな行動をしたかなんてことは分からない。みんなが当たり前のように使っている「Yahoo! BB」の加入者の情報が仮に分かっても、ビジネス上の価値はゼロに等しい。

 アマゾンのリコメンデーションサービスをプライバシーの侵害と思う人はいないわけです。プライバシーに対する考え方は、国や世代によって大きく違ってきます。例えば、「Facebook」なんかを見ても分かるように、アメリカ人はプライバシーに対する感覚がゆるい印象がある。日本では、特に30~40代のPC/インターネット系のユーザーがプライバシーに敏感ですが、ケータイ系のユーザーになると、そのあたりの感覚がかなり変わってきます。

 日本ではゼロかイチかの議論になりがちですが、誰のプライバシーをどの程度守るのかを決めないといけない。守るというお題目は素晴らしいが、守ることで本当にメリットがあるのか? 守らないことにメリットはないのか? そのバランスを考えていく必要がありますね。


佐々木俊尚氏プロフィール


1961年、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課などを担当する。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年に退職し、ジャーナリストとして主にIT分野を取材している。著作に『グーグル 既存のビジネスを破壊する』(文藝春秋)、『フラット革命』(講談社)など多数。

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