ユーザーは単なる厄介者なのか?
気になるのは、福田政権が消費者行政を単なる「苦情処理」と考えているように見えることだ。これは企業でも同じで、先週はgooブログの欠陥についてシステム管理者に問い合わせたところ、まったく同じ文面が3回も返ってきて驚いた。NTTグループのような官僚機構にとっては、消費者なんて機械的に「善処します」と答えておけばいい厄介者なのだろう。
こういう消費者をバカにした対応は、時として破滅的な結果をもたらす。
有名なのは、1999年に東芝のテクニカルサポートの「お宅さんみたいのはね、お客さんじゃないんですよ。クレーマーっちゅうの」という発言の電話録音がウェブで公開された事件だ。これは東芝製品の不買運動に発展し、東芝の副社長が謝罪した。年金受給者の苦情を10年以上にわたって無視してきた社会保険庁は、組織そのものが解体される。
クレームを生かせ
他方、クレームを戦略的に活用している企業もある。私は10年以上デルのパソコンを使っているが、テクニカルサポートに電話すると、問題が解決するまで徹底的につきあい、どうしても直らない場合はマザーボードまで交換してくれる。その代わり不良部品は必ず送り返させ、問題をチェックする。全世界から部品を調達し、多様な製品を注文生産するデルにとっては、事前に完璧に問題をなくすことは難しい。消費者からのクレームが、品質管理の強力な武器なのだ。
そして文字どおり「ユーザーが主権をもつシステム」が、インターネットだ。
デビッド・クラークの有名な言葉のように、インターネットは王も大統領も電話会社の支配も拒否し、ユーザーがすべてをコントロールする。それが、インターネットが全世界のユーザーの支持を集め、他のネットワークを圧倒した原因である。
日本のメーカーも、消費者の声を製品に反映させるのは得意だ。自動車、家電、カメラなど、日本企業が世界市場を制覇したのは、どれも消費者向けの製品だ。それは欧米では低い地位にある小売部門が日本では強い力をもち、消費者の苦情をメーカーに伝えることによって絶え間ない「改善」を続けてきたからだ。
こうした日本企業の強みは、消費者行政にも生かすことができる。インターネットで消費者の要求や批判を直接フィードバックし、それを行政に生かせばよい。時代遅れの産業振興策を担当する経産省は、すべての部局を消費者を主語にして再編成し、「消費者省」と改称してはどうだろうか。これは公正取引委員会とともに、霞ヶ関の最重要官庁と位置付けるべきだ。
日本経済の主権者は「消費者」なのだから。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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