深い洞察に満ちた批判
私は幸い、過去に4回にわたって彼に会う機会に恵まれた。'89年のハイパーテキストの会議、'90年のCSCWの会議、そして'98年のCHI(Computer-Human Interactions)の会議で、彼の講演を直接聴く機会にめぐまれたのだ。彼の講演を聴くたびに、その辛辣かつ深いコメントに感動した。
「誰が森の木を切り倒してしまったんだ?」というのは、ハイパーテキストの会議でWYSIWYG(What You See is What You Get)ベースの文書モデルを批判したときの言葉だ。本来文書はハイパーリンク的意味構造を持つべきなのに、それを理解せず、単純な紙の束モデルに走った人々を彼は批判した。
「何故CSCWの実現が20年も遅れてしまったんだ?」という批判は、彼がCSCWのビジョンをデモしたあと、パソコンという貧弱な通信機能を持った「島」が発明されたおかげで、CSCWシステムの構築に不可欠な通信・情報共有機能の実現を阻害し、その結果CSCWという分野の発展を20年も遅らせたという批判である。
私は、それらの批判を聴いて心底しびれた。
そして2007年5月17~18日、念願だったダグラス・エンゲルバートのMIT来訪が実現した。MITスローンスクールのトーマス・マローン教授率いるCCI(Center for Collective Intelligence)の招待で特別講演が行われたあと、タンジブル・メディア・グループのデモを直接見てもらい、議論する機会に恵まれた。
(次ページに続く)

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