中国が日本を追い抜く
インターネットの変化は急速で、方向もわからない。それを民間より情報も遅く動きも鈍い官僚が「指導」して事態が改善されると考えるのは、リバタリアンのもっとも強く批判するパターナリズム(家父長主義)だ。
今、日本の直面している最大の危機は、格差でもデフレでもない。通常国会の経済演説で大田弘子経済財政担当相が言った、「もはや日本は『経済は一流』ではない」ということが問題なのだ。その最大の原因は、古い企業にヒトとカネが囲い込まれ、新しい挑戦者が出てこないところにある
先週、中国の検索エンジン、「百度」(Baidu)が日本語版の正式サービスを始めた(関連記事)。
百度は創業から8年で世界第3位の検索エンジンになったが、日本の検索エンジンは、Yahoo!Japanとgooを除いて壊滅状態だ。彼らのサーバも米国に置かれている。日本の著作権法では、検索エンジンが違法とされているからだ。
といっても、法律にそう書いてあるわけではない。著作権法に「検索エンジンを適用除外とする」とは書いてないので、企業が自主規制しているだけだ。
こういう場合、英米では「法律で禁止しないかぎり自由」と考えるが、日本では「役所が許可してないことは禁止」と考えがちだ。こういうパターナリズムが企業を萎縮させ、新しいベンチャーの挑戦を阻害して、日本経済を三流に転落させたのである。
リバタリアンは、レッシグのいうように「あらゆる規制に反対する」わけではない(それじゃアナーキズムだ)。彼らは自由を守るルールの設定には賛成だが、政府が市場やインターネットに裁量的に介入するのには反対だ。このコラムは週1回だが、不幸なことにそういうネタには事欠かない。来週からは、そういう具体例を考えていこう。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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