Macworld 2008 リポート Vol. 5
「Goodbye, MD」の次は、「Goodbye, 光学式ドライブ」──林信行が読み解くMacworld
2008年01月19日 03時20分更新
ディスクレス時代は本当に来るのか?
もっとも、Remote Deskや外付けスーパードライブを使っていたのでは、本当の「ディスクレス」の時代はやってこない。やはり、まだまだ光学式ドライブの時代は続くのだろうか。
これについてヒントを与えてくれているのが、iPod touchだろう。
iPhone、Apple TV用に無償のファームウェアアップデートを提供したアップルだが、唯一、例外的にiPod touchだけは有料でファームウェアアップデートを行なうことになった。
この有料アップデートの配布に使われているのがiTunes Storeだ。iTunes Storeには、有料でソフトを販売する仕組みもあれば、ソフトの不法コピーを防ぐDRMも用意されている。
実はパソコン用ソフトの販売チャンネルとしても理想ではなかろうか。
1度書き込んだらそれでおしまい(あるいは書き換えにものすごく時間がかかる)の光学式ドライブに頼るよりも、ずっとスマートだし、環境にもやさしいソリューションのはずだ。
アップルが、ディスクレスの方向性を打ち出しても、ソフトウェア産業がすぐにその方向に舵を取り直すことはないだろう。
今回のExpoで発表されている、数え切れないほどの新製品もほとんどはCD-ROMやDVD-ROMに納められて販売されている。
しかし、アップルが、本腰をいれて動き始めれば、変化はすぐにでも訪れるはずだ。
「iTunes Store」がコンテンツストアに生まれ変わる!?
iTunes Storeを使ったソフトウェアの販売には、これ以外にも多くのメリットがある。1つはウィルスやトロイの木馬といったマルウェアをなくすことだ。
一度、アップルの審査を受けiTunes Storeで販売されるソフトであれば、みんな安心して使うことができる。実際、携帯電話の世界ではauの携帯電話で使われているクアルコムが同様のソフトウェア配信方法を採用している。
iTunes Storeを使ってコンテンツを売りたいという会社はたくさんいる。
日本では数社が、iPhoneやiPod touchで見るのに最適化された漫画を、なんとかiTunes Storeで売れないかと画策している。
今回、iTunes StoreにiTunes Movie Rentalが加わったことで、iTunesは期限付きコンテンツの配信にも対応した。こうしたしくみはちょっと工夫するだけで他のデータ形式やアプリケーションにも応用できるはずだ。
iTunes Storeで、ソフトウェアの販売をするとなると、1つだけ問題がある。
今でこそなんとか、なりたっているが、音楽向けソフトを印象付ける「Tune」という言葉がふさわしくなくなってしまう可能性がある。
「iTunes Store」が「アップル・コンテンツ・ストア」に生まれ変わる日はそう遠くない日にやってくるかも知れない。
これは単なる偶然かも知れないが、Macworld Expoの前々日、会場にもっとも近い「Apple Store San Francisco」に行ったところ、普段は多数のソフトが陳列されている棚が半分くらいに減っていた。
広く空いたスペースには大きなテーブルが置かれ、Apple Storeの一番の人気サービス、「One to One」(個人トレーニング)用スペースとして使われていた。
人間のぬくもりや機転、柔軟性はオンラインでは届けることはできないが、Apple Storeから消えた棚にあったソフトの多くは、ソフト本体や体験版がインターネットでも売られている。
わざわざパッケージを作り、いずれはゴミになるディスクを使って販売する必要はないのだ。
筆者紹介─林信行
フリーランスITジャーナリスト。ITビジネス動向から工業デザイン、インタラクションデザインなど多彩な分野の記事を執筆。「MACPOWER」「MacPeople」のアドバイザーを経て、現在、日本および海外の媒体にて記事を執筆中。マイクロソフトの公式サイトで執筆中の連載「Apple's Eye」で有名。自身のブログ「nobilog2」も更新中。近著に「スティーブ・ジョブズ ー偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡」(アスキー刊)、「iPhoneショック」(日経BP刊)、「アップルコンフィデンシャル2.5J」(アスペクト刊)、「ブログ・オン・ビジネス」(日経BP刊)など。