デスクトップ製品から、企業内の情報共有や集合知の分野に舵取りを図っているマイクロソフト。同社が目を付けたのが企業内検索で知られるノルウェーFASTだ。当サイトで、連載「栗原潔の“エンタープライズ・コンピューティング新世紀”」を執筆中の著者栗原潔氏に今回の買収のインパクトについて聞いた。
企業内検索で、いま最も評価の高いFAST
昨今のソフトウェア業界では、どのベンダーがどのベンダーを買収してもさほど驚かなくなってしまった。
米マイクロソフト社が、ノルウェーのファスト・サーチ・アンド・トランスファー(FAST)社に買収提案したことについても、筆者の印象は、まったく意外というものではなく「マイクロソフトは良い買収ターゲットを見付けたな」というものであった。
マイクロソフトが市場株価の40パーセントのプレミアムというきわめて魅力的な条件を提示していること、FASTの取締役会が買収に全員賛成していること、すでに大株主の一部がマイクロソフトに株を売却していること、そして、現状においてサーチの分野でマイクロソフトの独占による弊害が発生しているとは言い難いことから、この買収が成立するのはほぼ確実と言ってよいだろう。
FASTはノルウェー科学技術大学で研究開発された検索技術をもとに、1997年に設立された企業で、オスロに本社を置いている。
当初は、インターネット向けの検索エンジンを提供していたが、2003年にインターネットサーチのビジネスと知的財産をすべて米オーバーチュア社に売却(なお、その直後に米ヤフー社がオーバーチュアを買収している)。その後は、エンタープライズサーチ(およびサイト内サーチ)に特化した企業となった。
FASTの守備範囲は、ハイエンドのエンタープライズサーチおよび(新聞社などの)大規模サイト向けサーチ、および、OEM提供(たとえば、EMCの文書管理システム)が中心となる。そのため、一般ユーザーにとってはなじみが薄い存在かもしれない。しかし、エンタープライズサーチの分野では最も高く評価されているベンダーのひとつである。
400名強の従業員のうち、半数がデベロッパー(うち50名が博士号の研究者)と言われており、利益の4分の1を研究開発投資に回すなどテクノロジーオリエンテッドな社風を持っている。2006年度の売上は1億6200万ドル(約177億円)だ。
