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おとなの社会科見学 Web版 第8回

エールで大手酒造に挑む~ビール工房ヤッホー・ブルーイングの戦略に迫る

2007年12月29日 22時06分更新

文● 山崎マキコ

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 なぜ、他の「地ビール」は安定しないんでしょうか。

「実はここも僕が入る前はそうだったんですけど、毎回新しいイーストを使うんですね。新しいイーストというのは“バージンイースト”といって、イーストは分類上植物ですから、基本的には生きてるもの。人間もそうですが、初めて出産するって大変じゃないですか。それはイーストも同じで、初めて発酵するってとても大変なんですよ。で、一次発酵や二次発酵の期間が予想よりズレるんです。24時間とか36時間とか。つまりバージンイーストは最もデリケート。でもそれを乗り越えると、だいたい5回目ぐらいから、読めるんです。で、他の地ビールメーカーのビールの品質が安定しないのは、毎回バージンイーストを取り寄せているからなんです。どういうわけか知りませんが、『フレッシュなイーストを使っています、だからフレッシュなんです』というんです」

 なるほど、ビールに関して間違った文化が根付いちゃったわけですね。本来はハウスイーストを使いまわさなくちゃならないところを、毎回培養屋さんから取り寄せるのが「フレッシュ」と。作りたてのビールを「フレッシュ」と呼ぶのはまだわかるにしても、酵母が毎回替えるのが「フレッシュ」ってどういうことよ。なにか酵母に関して、決定的に誤解しているような気がする。

「あと、他社はけっこうレシピを変更していきます。ヤッホーもやってました。つまり、レシピというのはある程度個性として固めた瞬間から一切変えちゃいけないんです。マーケットからそむかれない限りは変えちゃいけない。だって有名なレストランのシェフが、同じメニューなのに毎日作っているものが違うはずないですよね。なのに、なぜかレシピを変えていってしまうところが日本には多いですね」

 このお話を伺って長年の謎が溶けたと同時に、わたしの実家の近所にあったラーメン屋のことを思い出した。開店当初はうまいラーメン屋として客を大評判だったのだが、ご主人が律儀な人だったせいなのかなんなのか、そのうち、行くごとに味が濃くなったり薄くなったりして、やがては投げやりに「味が濃ければこの液で薄め、味が薄ければこの液で濃くしてください」という、謎の液体が入った容器が置かれるようになった。結局、この可哀想なラーメン屋さんは潰れたのだが。

 ところで最後に豆知識。ビールというと、腰に手をあてて缶やジョッキから喉越しでカーッと飲むもんだとわたしも思っていたんだが、この飲み方はラガー限定で、エールというのは最初のひと口の飲み方が違うらしい。これはエールに「エステル」と呼ばれる香気物質が含まれているせいで、ちなみにエステルはワインにも含まれているらしい。だから最初のひと口を飲む作法はワインのテイスティングとほぼ一緒。ビールグラスに注いだエールに濁りがないかを目で確認、のちに香りを嗅いで、口に含んで味わうのが基本なんだとか。エールの世界は、なかなか奥深いようであります。

 そんなところで今月のウェブ版はおしまい。それでは皆様、また次回。

(名称・数字・肩書等は取材当時のものです)

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