基幹システム導入の成功例は「量販店」
「SAPを導入してITの運用コストを削減させたい」「経営の可視化をして意思決定の判断を迅速に行ないたい」。これらは企業側がERPを導入する際の主な動機だが、うまく軌道に乗せるためには導入しただけで終わらせてはならないという。成功している企業はどのようにシステムを活用しているのか。
「SAPを導入してようやくカットオーバーさせたが、日々の業務側のプロセスがシステムとマッチせず、活用しきれていないといったケースも見受けられます。つまり利用者が使いこなせるかどうかは導入成功のカギというわけです。たとえば、支店の営業成績をデータベースから瞬時に取り出せるようにしたとします。しかし、経営者がすぐに営業成績をチェックし、判断を下すことをできなければ、結局は導入前と決断を下すスピードは変わらない。このような場合は、システムに投じた費用が無駄になってしまうのです」
システム業務が効率的になった分、利用者はそのスピードに対応していかなければならない。導入することばかりが先行してしまい、大方導入が終わったあとに、それを使って何をするかを検討する企業もあると齋藤さんは言う。
「成功事例としては、ある大手量販店のお話を聞いています。そこでは、SAP(のERPパッケージ)を導入して自社の業務体系とパッケージを連携させている。予実管理を徹底しており、数時間毎にシステムが出すデータをもとに、トップから素早い意思決定、指示を下せる体制になっていますね」
“利用者の都合”を考えたシステム開発
ITを導入すれば企業の経営は効率化すると思いがちだ。だが、実際には、ITは「使いこなせる」ことが重要。このことから、システムの開発者は“利用しやすさ”をより考える必要があるということがわかる。
「企業の担当者は業務を刷新するときに、社内業務全体のシステムを俯瞰し、パッケージで向いている部分と向いていない部分を判断できることが大切です。しかし、ビジネスプロセスに注視してしまうケースも多く、業務改善を前面に出す傾向があります。しかし、パッケージを使おうがスクラッチで行なおうが、開発の流れは変わりません。開発は、要件定義から始まり、基本設計、詳細設計、開発、テスト・移行と進捗していきます。パッケージを導入する際にテストを簡略化するケースも見受けられますが、それは後々のトラブルのもとになっているようです」
ユーザー企業側もITに精通している者が担当しているとはいえ、パッケージの細かい部分までは分からない場合が多い。そこで、システム開発者側は、技術にだけ走るのではなく、利用者側の全体を見渡せる能力を兼ね備えておきたい。そのため、企業の担当者とのコミュニケーションを円滑にするためや、安心してもらうために、PMBOKなどプロジェクトマネジメント関連の資格を取得するのも効果があると齋藤さんはアドバイスをする。
「システム開発の高いスキルは当然必要ですが、システムは利用者が正しく使えてはじめて役立つもの。利用する立場から考えることを忘れてはいけません。また、ユーザー企業側の担当者と意思疎通をスムーズに行なうためにも、相手の業界の基礎知識を身につけていくことも大切です」
人事、財務、会計は共通していても、販売や流通などは業界ごとに構図が異なる。つまり、より多くの業界の基本的な知識を知っておけば、システム開発の幅が広がるわけだ。そのためにも、日頃から担当している業界の動きをはじめ、各業界の動きに敏感になることがシステム開発者に求められている。
- ■取材協力
- ガートナー ジャパン株式会社
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