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【著者インタビュー】元国連事務次長 明石 康 氏

『国際連合 軌跡と展望』

2007年12月19日 00時00分更新

文● 清水真砂 写真●曽根田 元

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―― 潘基文(パン・ギムン)事務総長が新たに就任しました。今後の国連が取り組むべきテーマとはなんでしょう。

明石 康 氏

明石 康   1931年秋田県生まれ。1954年東京大学教養学科卒業。同大学院を経て、ヴァージニア大学、フレッチャースクール、コロンビア大学に留学。1957年より国連事務局に勤務し、政務担当官、事務総長官房補佐官などを歴任した。1974年から79年まで日本政府国連代表部参事官、同公使、同大使を務める。1979年より国連事務次長。1992年から1995年まで事務総長特別代表(カンボジア暫定統治機構、旧ユーゴスラビア担当)、1997年末退官。現在はスリランカ平和構築担当日本政府代表、立命館大学および国際教養大学客員教授。

まず国連の機構改革です。設立から60年たち、国連は大きすぎて、複雑な組織になってしまいました。今後は合理化を図っていく必要があるでしょう。もうひとつは安保理の問題です。日本やインドを新しい常任理事国として、20数カ国の安保理に果たして改革できるかが焦点となります。

政治や平和の問題だけでなく、開発、環境、人口、エイズ、あるいはもっと新しい問題、そういったものにも取り組んでいく必要があります。しかし、すべてのことを同時に行えば、すべてが中途半端に終わってしまいます。どういう優先順位を立てて問題に取り組むか、どう賛同を得るのか、そして誰が主体になって取り組むのか、これらは難しい問題です。

ですが、これまでも国連は不可能と思われる問題の解決を実現してきました。国連の現実に失望することはあります。しかし、絶望することは許されないのです。

―― 日本人と国際社会のあり方についてどう考えるべきでしょうか。

私は現在いくつかの大学で教鞭をとっていますが、国連、国際機構に関心を持つ若い人はたくさんいます。ただ、そういうところで生き残る能力、スキルを持っている人は大変少ないのです。そして、日本の社会がそういったことに関心を持っている人材を大事に育てているかというと、そうではない。社会としてもっと組織的に大規模に取り組まなければならないでしょう。

どう優秀な人材を輩出していくか、そのことに我々はもっと危機感を持っていいのです。日本は居心地のいい、やさしい社会になってしまった。しかし、もっと緊張感のある、テンポの速い生活が世界にはあるのです。そういう社会に触れる機会を作らなければなりません。

私自身は、現在の力は劣ってもこれから伸びる可能性と意欲を持っている人に惹かれます。そういう人にチャンスが残されている社会でないと希望のない社会になってします。教育を制度的なものから変えなくてはならないでしょう。

今の日本の社会は、リスクを恐れて新しいことに挑むのをおろそかにしている気がしています。グローバル化に生身で飛び込み、他流試合に挑む人が、アジアの他の国と比べても少ない。この遅れをどう取り戻すかが問題となっているのです。

―― 今後の活動について少し教えてください。

いま、もう一冊本を書こうと考えています。私が出会ったPKOのリーダーたちの人間像を描いた本です。グローバル化時代の戦争と平和の谷間で活躍する彼らはいったいどういう人間なのかを伝えたいと思っています

『国際連合 軌跡と展望』

『国際連合 軌跡と展望』発行:岩波書店(岩波新書赤本1052)/本体価格700円(税抜)。元国連事務次長自らの筆による国際連合についての入門書。40年前のベストセラーを全面刷新。国連発足の経緯から、歴史、制度、事務総長の人物像、今後の展望などの膨大な内容を、著者独自の視点も絡めて簡潔に解説している。21世紀の日本と世界のあり方を考える上で欠かせない一冊。

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