デイヴィ・ジョーンズの“動くひげ”を実現するために
本物の蛸をスキャンしてPhotoshopで加工!?
―― 最初にこんなシーンを作ってみたいというのはありましたか?
ジョン 私の仕事は監督が持っているビジョンを映像にすることなので(自分からこれを作りたいと言うことはありません)。
―― (敵役の海賊)デイヴィ・ジョーンズのひげが動くなんていう、びっくりするようなアイディアは、誰が発想したのですか?
ジョン 監督が思いついたのです。ほかにも、作中のアイデアはほとんど彼が発想しています。
―― 監督はそんなことが本当にできると思ったんでしょうか?
ジョン (笑)。要求として突きつけられて、言われた以上は、なんとか現実のものとするのが私の仕事なので。
―― 制作中にもAdobe Photoshopが使われたと思いますが、それはどのように使われたのでしょうか?
ジョン Photoshopはこのプロダクションの中で重要な役割を担っています。コンセプト・アート、マット・ペイントを始め、デイヴィ・ジョーンズの肌のテクスチャーとか、色もPhotoshopを使いました。
―― まさか実際に蛸をスキャンして、Photoshopで加工したとか?
ジョン (大笑)。確かに現実にあるものを使うことが多いのですが、それよりも面白いエピソードがあるんですよ。あの吸盤はあるアーティストが、数日間放置された珈琲の残りが入った発泡スチロール性のコップを見つけたんですが、そのコップの底に珈琲が染み込んでいて、隙間にブツブツの模様になっていたんです。これをスキャンして作ったのです。
また、「呪われた海賊たち」に“スケルトン”という敵が出てくるんですが、これが完全に骨だけではなくて肉が残っている造形になっているのですが、これはターキー(七面鳥)のジャーキーを買ってきてスキャナーに載せて、それを(取り込んで)使いました。
―― ビーフジャーキーではなくてターキーにしたのは?
ジョン ビーフジャーキーよりターキーの方が色が薄くて、イメージにあっていたのです。
―― それにしてもILMにはそんな“変なこと”を考えている人ばかりいるのですか?
ジョン それがILMの素晴らしいところで、みんなクリエイティブなのです。しかも、さらにILMの素晴らしいところが、才能を持った1人のクリエイティブが周りに連鎖していくことなんです。あの環境でしか起き得ないところがあることなんです。
デジタル合成やリアルなCGが表現できる今は
20年前に比べて夢のよう
―― 少年時代より特殊撮影にはご興味があったようですが、あなたにとっては好きなVFXのアーティストは?
ジョン う~ん、いろいろいるのですが、ダグラス・トランブル(Douglas Trumbull)、デニス・ミラン、レイ・ハリーハウゼン(Ray Harryhausen)もそうです。彼らにさまざまなインスピレーションを受けました。
―― 日本のVFX作品を見ることはありますか? またコラボレートしてみたいクリエイターはいますか?
ジョン 残念ですがVFX作品は見たことがありません。アニメはいろいろと見たことがあります。「GHOST IN THE SHELL」とか。宮崎(駿)監督とは仕事してみたいですね。
―― 日本はVFXを映画制作のコスト圧縮のために使用することがあるのですが、予算をかけずに作るヒントはありますか?
ジョン 限られた時間や予算で行なうことは重要だと思います。私に与えられるミッションはコストを圧縮するということではなく、画像の素晴らしさを要求されるので、いかにそういう映像を作り出せるか、というところでやっています。
―― (同席いただいた兄のトーマス・ノール氏に)ジョンさんの仕事をどのように見ていましたか?
トーマス・ノール まだ、「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」は見ていないんです。実を言いますと、寝てしまったので(笑)。ビジュアル的にはいいと思うんですが、筋書きがどうも納得いかないんです。娘は気に入ったようなんですけど、ジョニー・デップさんが出ているからだと思いますが。ジョンの仕事では「アビス」が好きです。あれはとてもいい作品です。
―― 最後にうかがいます。映画の制作におけるVFXは、最初の頃から大きく変わったと思いますが、ジョンさんから見て何がどのように変わりましたか?
ジョン この20年でのVFXの革命は、デジタル合成ができるようになったことです。それとリアルなCGが描けるようになったことですね。以前はこうした作業はほとんど手作業に近いものでしたから、当時に比べると今は夢のようです。