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柿崎俊道の「海外アニメ小話」

「グレンラガン」「アイシールド21」──日本のアニメはベトナムでも作られていたっ!!

2007年12月18日 09時00分更新

文● 柿崎俊道

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賃金ではなく、やりがいのある仕事で


 「常に心掛けているのは、ベトナムにアニメ産業を定着させることです」と工藤さんは語る。

 「下請けのスタッフとして、ベトナムの若者から労力と時間を収奪するのではなく、アニメ製作の技術や知識を根付かせることが大事だと思うんです。それが日本のアニメ産業を広げることにつながると思う。だから、クオリティーの高い作品をできるだけ受注して、丁寧な仕事を覚えてもらうようにしています」

 だが、中国スタジオの二の舞になる心配は常にぬぐい去れない。

 現在、フランス、ドイツ、中国の企業はベトナムにアニメ制作会社を置き、ベトナムの若者を雇い始めている。日本のアニメーター経験を持つ若者は、どこのアニメ制作会社も欲しい人材である。

 互いの賃上げ競争が発生すれば、人材が流動的になり、アニメーター育成の阻害を生むばかりか、ベトナム全体が下請けとしての魅力を失ってしまう。ギリギリの予算で制作している日本のアニメ産業は手を引くしかないのだ。

 「外国資本の競争でアニメーターの人件費を上げていくのは、結局は自分たちの首を絞めることにつながります。外資である私たちはいずれベトナムを離れることになりますが、アニメ産業そのものはベトナムに末永く根付いてほしい。そのためには、現地の経済発展とともに自然にアニメーターの意識が上がるようにすることだと思うんです。スタッフに残ってほしいから賃金を上げるようでは、先が見えています。それよりもやりがいのある仕事をしてもらうことで、この会社で働きたいと思ってほしいんです」

 海外へ進出する日本のアニメ企業が、発展途上国を渡り歩く流浪の民となるのか。それとも、長い間蓄積した技術と知識を世界中に広めていく伝道師となるのか。

 「ジャパニメーション」といわれる日本産アニメが世界標準になれるかどうかの鍵が、ベトナムのアニメ産業の今後にあるように思えて仕方がない。


筆者紹介──柿崎俊道


アニメ、ゲームの作り方を中心に取材を続けるフリーランスのライター。著書に「聖地巡礼 アニメ・マンガ12ケ所めぐり」(キルタイムコミュニケーション)、「Works of ゲド戦記」(ビー・エヌ・エヌ新社)など。


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