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【SaaSキーパーソン・インタビュー】

「SaaSはパッケージベンダーがやるからこそ価値がある」――日本オラクルの藤本執行役員

2007年11月30日 13時26分更新

文● 小橋川誠己(アスキービジネス編集部)

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北米に比べて遅れる日本のSaaS市場、その理由は?


「SaaSはパッケージベン ダーがやるから価値がある 」――日本...

――まずは日本のSaaS市場の拡大に取り組む、ということですね。なぜ日本は北米に比べて遅れているのでしょうか。

藤本氏:理由はいくつかあると思います。まず、北米でも日本でも、SaaSとして最初に登場したアプリケーションがCRMだったということです。現在でも、市場は「SaaS≒CRM」に近い状態にあるといえます。

 そう考えたときに、CRM市場そのものが、ERPなどの他のアプリケーション市場に比べて、日本ではまだまだ成熟していません。ERPは昨今の内部統制などの影響もあり、だいぶ北米に追いついてきた印象があります。ERPの次のタイミングとして、CRMがブレイクする可能性もあるかもしれませんが、少なくとも現時点ではSaaS/パッケージを問わず、日米の市場感に相当の違いがあるのは事実です。

 また、これは我々の反省でもありますが、ベンダー側の力不足の面もあります。北米ではセールスフォース・ドットコムやネットスイートにもっと強力な存在感がありますし、もちろんオラクルも非常に力を入れています。ほかにも、ピープルソフトの創業者(デイブ・ダフィールド氏)が立ち上げたワークデイなどのベンダーもあります。プレーヤーが多い分、必然的に目に付く機会が多くなり、検討する機会もそれだけ増えている。一方、日本ではまだプレーヤーが少なすぎますし、ベンダーの力も弱い。それも日本が遅れている理由になっていると思います。

――ユーザー側の視点からはどうですか。たとえば、データを預けることに対するセキュリティや心理的な不安の面も指摘されています。

藤本氏:確かに当初はセキュリティについての不安も聞かれましたが、技術的にはSaaSでもパッケージでも本質はさほど変わりません。セキュリティについてはここ1年でだいぶ理解が進んできたと感じています。

 心理的な面では、確かに目の前にシステムがないことに対する不安感はあるでしょうね。ただ、それがSaaSの利用を見合わせる決定的な理由にはなっていません。いくつかある理由の1つに過ぎないと思います。

 SaaSのような「持たない経営」の考え方は、北米では情報システムだけでなく先行しています。開発をインドにオフショアで委託したり、VMI(Vender Managed Inventory:納入業者に在庫管理を任せる手法)のような方法も発達しています。コアコンピタンス以外の周辺部分を外部に任せてしまうという発想ですが、最近になって日本でもそうした考えがだいぶ進んできました。「持たない経営」を考えたときに、SaaSがシステムの選択肢としてぐっと浮上することもあるかもしれません。


適用分野はどう広がるか? SaaS市場の今後


――最後に、今後のSaaS市場の見通しについてお聞かせください。適用範囲はどのように広がっていくと思いますか。たとえば、基幹系でもSaaSを導入する流れが進むのでしょうか。

藤本氏:オラクルとして現時点ではSiebel以外の話をするのは難しいですが、一般論としては、基幹系をSaaSで提供することも技術的には何ら問題はないと思います。しかし、できるからといって、本当にそれを使いたいのか、議論の余地はあります。

 実は企業内で使うERPについては、いま再びシェアードサービスが伸びてきています。これは、内部統制や会計コンバージェンス(国際会計基準への共通化)の問題から、本社と子会社でグループとしての統一基準を用いた標準化が求められているからです。こうしたケースでは、SaaSよりもシェアードサービスの方がグループ全体でのスケールメリットを得られやすいこともある。

 一方でSaaSでは、こうしたコスト面での自助努力は効きません。しかし逆に、CRMやSCMのように変化の激しい分野では、メンテナンスのコストを考え、SaaSが広まるかもしれない。自社やグループ内だけでなく、常に社外との連携を考えなければならないからです。そうした、適用範囲という観点でのSaaSとパッケージの使い分けがあるかもしれません。

 いずれにしても、SaaSのよいところは、実際に動いているところをすぐに見られるところですね。1カ月使ってみて、「使える」「使えない」の判断をしてもらえれば、わずかな投資で済む。これは今までのパッケージでは絶対にできないことです。システム導入の敷居を低くするという点でいえば、ユーザーにとってもベンダーにとっても、SaaSは画期的なことだと思います。

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