ユーザビリティを高めるキーアサイン
パソコンと携帯電話では画面サイズも、ダウンロードの速度も大きく異なる。操作を考えても携帯電話にはキーボードもなければ、マウスもない。同じキーアサインでは、目的地の地図を調べるのに多くの手間と時間を要してしまうことだろう。
「開発のポイントとなったのはデザイン(情報量)とキーアサインを改良した点です。まず携帯電話の画面サイズを考えると、PC版と同じ情報量を入れていたのでは、ゴチャゴチャしていて見づらいでしょう。そこで、地図から場所を視認するのに必要だと思われる情報のみを表示するようにしました。また、特にこだわったのがキーアサインです。これについてはプロジェクトマネージャーやデザイナーと一緒にできるだけ少ない操作回数で、検索結果(目的地の地図)にたどりつけるような方法を考えていきました。ここでは前職の家電メーカーでのデジタル家電の組み込みソフトウェア開発の経験も生かすことができたと思います」
固有な面が多いグーグルのテクノロジー
『モバイルGoogleマップ』の公開までの実動は4ヶ月程度。少人数のエンジニアとともに、このような厳しい条件のもとで、若狭さんはどのようにプロジェクトマネージャーやデザイナーとサービスを完成させていったのだろうか。
「正式なミーティングは極力減らし、思い立ったプランはドキュメントに簡単にまとめあげ、とりあえず試作を作ります。その試作ができた段階でプロジェクトマネージャーやデザイナーに見せて意見をもらい、その意見をもとに手直しするという作業を何度も繰り返してクオリティを高めていくという方法でプロジェクトを進めました。実際に動くものを作っているため、プロジェクトマネージャーやデザイナーの反応が早く、手直しを早急に進めることができます。Googleでは会社に特に決済を取るシステムがなく、開発において会議や稟議、決済などは徹底して省かれています。エンジニアの自主性を重視しされているため、この開発手法がもっともスピーディーなのです」
このような手法はGoogle全体で行なわれているそうだが、若狭さんがGoogleに入社したのは今年4月。すぐさまその開発手法に慣れ、即戦力としてGMMのプロジェクトに参加しなければならなかったはずだ。そこには、若狭さんの仕事術があるのではないだろうか。
「グーグルに入った当初、社のポリシーは『エンジニアがやりたいと思うことをやらせる』ことであるという話を聞きました。トップダウンで人が動くのではなく自主性が尊重されると。それはつまり手取り足取り面倒を見てはくれないということなので、自ら率先して情報をつかみに動いています。そうすることでスピーディーな開発には自然に慣れていきました。ただ、グーグルのテクノロジーは固有のものが多く、書店で売られている参考書だけでは太刀打ちできません。そのため社内には、Googleインフラストラクチャー、ソースコード構成、各種ライブラリ等の情報がたくさん用意されています。これらを学ぶ中でプログラムやネットワークの仕組みなどコンピューターサイエンスの基礎知識の重要性を強く感じましたね」
Googleは世界規模で会社が動いている。直接面識のない人とも結果的には一緒にチームを組んでいた、ということもあるそうだ。若狭さんは面識のない人との協力の仕方、働き方には気を配っているという。さまざまな環境のもとで働く、固有のスキルと経験を持った多くの人々が互いに関連し合うには、コンピュータサイエンスの基本が“共通言語”として高いレベルで要求されると最後に加えた。
- ■取材協力
- モバイルGoogleマップ
- グーグル株式会社
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