ブラウン管の曲線に見るレトロ
そういえば「足したり引いたり」で、ふと思い出した。
INFOBAR 2をデザインした深沢直人さんは、「±0」(プラマイゼロ)という家電・雑貨ブランドのデザイン・ディレクターを務めている。±0で深沢さんは、既に存在しているはずの感覚である「共有感覚」と、「ありそうでなかったもの」をデザインし、提案というよりはユーザーを代弁するように、ものづくりをしている。
僕が±0で気に入っているのは、ブラウン管テレビの「8-inch LCD TV」である。
昨今、テレビといえば薄型であることを強調するのが常だが、8-inch LCD TVは、ブラウン管テレビのブラウン管をそのまま抜き出してきたような形状をしている。そのため、床だろうがキッチンの片隅だろうが、安定性を気にせずどこにでもごろんと置くことができる。
わざわざブラウン管の形状にしなくても、と思うかも知れない。しかしこの形は、少なくとも今現在の大学生より上の年代の人なら、懐かしさを感じるだろう。液晶ディスプレーを使わなければ実現できなかった、すでに存在している「共有感覚」をくすぐるレトロなカタチ。しかもそこに、気軽に設置できるという意味まで与えられているのだ。
この最新のテクノロジーとレトロなデザインの必然的な融合が、僕がこのテレビにとてつもなく感性をくすぐられる理由なのだ。
有機ELで見る、ブラウン管テレビ
同じようにINFOBAR 2にも、レトロと最新の融合を見ることができる。
ディスプレーの部分に注目すると、ブラウン管テレビを彷彿とさせる緩やかな湾曲があり、同じ曲面で端末全体を包み込んでいく。そのカーブの奥に置かれた、フラットな画面。8-inch LCD TVで感じたレトロなテレビに対する共有感覚を思い起こさせる。事実、INFOBAR 2ではワンセグテレビが見られる。
ストレート型端末というスタイルに感じるレトロ感、ブラウン管テレビを彷彿とさせるディスプレー部分のレトロ感が二重になって津波のように押し寄せてくる。
さらに、INFOBAR 2のディスプレーは、新世代の有機ELパネルが採用された。
有機ELパネルは、低消費電力、超薄型化、そして未体験の高コントラストが特徴だ。この新しいテクノロジーは、端末をスマートに保つことができ、魅惑のセクシーなグリップを実現する。そしてビビッドな濃い色を発色して、インパクトあるボディカラーとバランスを取る画面表示を確保しているのだ。
新しいテクノロジーに支えられたレトロ感、それをさらなるレトロを伴いながらも、セクシーにまとめ上げるデザイン。この冬の愛され系は、レトロ&セクシーの、この端末で決まりだろう。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について探求している。自身のブログはTAROSITE.NET。
*次回は11月29日掲載予定
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