都市デザインの役割
ところで、この展覧会のメインテーマは「都市」である。都市計画の世界的なスペシャリストであるリチャード・バーデット氏がディレクター/キュレーターとしての腕を振るい、社会や経済の動きから都市をとらえた厚みのある展示が目立った。
世界中の大都市を巡る人口爆発、ゴミ処理、交通麻痺、公害、エネルギー消費といった多様な問題を、ニューヨーク、メキシコシティー、東京、上海、ムンバイ、イスタンブール、ロンドン、ヨハネスブルグ、ベルリン、バルセロナなどを例に挙げて比較・分析しながら、多角的に視覚化して見せたのだ。
エネルギーの視点から見ると、これまで科学技術の世界では、原子力などの「発電技術」に焦点が当てられがちだった。しかし今回のベネチア・ビエンナーレ国際建築展では、「都市のデザイン」そのものが人類の未来に果たす役割と責任の大きさを明らかにし、来場者の一人ひとりがそれを考える展示を行ってくれた。
世界の人口の半分が居住する都市──これが来世紀には人口の75%を収容することになるという。それに伴い、アジアに見られるように巨大化の一途をたどる都市もあれば、欧州に見られるようにポスト産業社会に適応するために縮小を始めた都市もある。
世界の大都市の現状を分析・評価しつつ、例えばエネルギー効率のよい来世紀の都市像を探すため、多角的なシミュレーションを用いて、どのような選択が可能なのかを視覚的に示した今回の展示会。欧州においては将来、鉄道網が航空網よりもはるかに重要な貢献をもたらすことを視覚化したシミュレーション結果もあった。個人的にも考えさせられる展示が多く、今回の出張は極めて満足度の高いものであった。
(MacPeople 2006年12月号より転載)
筆者紹介─石井裕
米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。
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