待ちきれなくて蒸気機関車に会いに行く
夜が明ければ、蒸気機関車が目前に現われることは分かっている。しかし、はやる気持ちを抑えきれずに、蒸気機関車が保管されているトンブリー機関区へ足を向けた。一応、お友達の蒸気機関車の整備課長を訪問するという面子だけはつくろっておいた。しかし、満面の笑みを浮かべたオッサンが、背中に三脚をぶらさげて立っているので説得力は限りなくゼロに近い。
両手を合わせるタイ式の挨拶「ワイ」をするボク。すると、打ち合わせ中だった整備課長が迎えてくれた。工場内のミカド型蒸気機関車を眺めると、ボイラーの深緑色が鮮やかに塗装し直されているのが分かった。タイ国鉄は、これら車歴60年を超える日本製の蒸気機関車たちを本気で愛して、プライドをかけて整備してくれている。日本人としては感謝の言葉もない。
タイの蒸気機関車について
2007年現在、タイ国鉄は、ミカド型を1両(953番)、パシフィック型を2両(824番/850番)、C56型を2両(713番/715番)、合わせて5両の蒸気機関車を動態保存する。
タイ国鉄と日本型蒸気機関車の関係は深い。タイ国鉄の前身である王室鉄道局は、第二次世界大戦前にすでに動輪4軸のミカド型(貨物用)と動輪3軸のパシフィック型(旅客用)を運用していた。1936年にミカド型がまず日本から輸出され、その後にパシフィック型が追加発注されたという歴史がある。
戦中、旧日本陸軍がタイの鉄道輸送の強化のために、日本で徴用したC56型とC58型をタイに持ち込んだ。戦後、これらの車両は王室鉄道局へ受け継がれた。軽量小型のC56型の方は使い勝手がよく、無煙化が達成するまでタイの旅客と貨物の輸送を支え続けたという。
戦後になって、日本政府は戦後賠償の一部として、新品の蒸気機関車をタイ政府へ物納した。戦前から運用していたミカド型とパシフィック型のマイナー・チェンジ版(戦後版)をそれぞれ約50両ずつだ。これらはタイが入手した最後の新品の蒸気機関車となった。
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