動画の画作り、静止画の画作り
まず、液晶にせよ、プラズマにせよ、「画像表示装置」(ディスプレー)は、受け取った画像信号をそのままストレートに画面に出すわけではないという点を理解したい。表示される画像の信号に手を加え、最適化する処理は「画作り」などとも呼ばれる。こういった「人間に良い印象を与えるための操作」は、何も最近になって始まったわけではない。ブラウン管(CRT)の時代からずっと行なわれてきたことだ。
特に、最近のデジタル信号を直接入力できるディスプレーでは、アナログ時代に比べて、はるかに多種多様な画作りを施すことが可能だ。画像の表示速度に間に合う限り、どんな種類の画像フィルターでも適用できるためだ。
画作りの具体例を挙げよう。例えば、動画の表示を行なう際には「明るくメリハリが利いて、輪郭がハッキリする」ようにしたほうが見栄えがよくなると言われている。実際に、多くのテレビ用ディスプレーではそのような画作りをあらかじめ施した上で製品が出荷されている。輪郭の強調度合いがきついディスプレイでは、輪郭線がうっすらと二重に見えるかも知れない。
動画で動き回るものの色は、生理学的には見えていても「心理的には認知されていない状況にある」と言ってもいい。リンゴの赤なら、「あ、これは赤だな」とか思うのが精いっぱいで、「あ、おいしそうな赤だな」と感じる暇はまずないと書くとイメージしやすいだろうか。
つまり、動画コンテンツにおいては、現実の色合いにいかに忠実であるかどうかよりも、ほかの被写体と識別が容易にできるようにしたほうが、人間の眼には分かりやすく、好印象を与えやすいのである。
一方、静止画を鑑賞する場合は、個々の色合いを忠実に再現するほうがいい評価を得やすい。また、静止画では細部にわたって色合いをじっくり鑑賞できるので、メリハリが不自然に強調された画像よりも、滑らかで自然な色合いの絵のほうが好まれる傾向にある。リンゴの例で言うと、「おいしそうだな」とか、「ちょっと酸っぱそうだな」とか、色々と想像できるような色で再現してくれるディスプレーのほうが望ましいというわけである。
画像の大型化が、新しいニーズを生んだ
さて、静止画モードである。実際には昔からのブラウン管テレビだろうが、最新の液晶やプラズマディスプレーだろうが、画面に写真(静止画)を表示できる。
それでは、いまなぜ、静止画モードが注目されているのだろう。
その理由のひとつは、フラットテレビの登場により、ブラウン管の時代には考えられなかった大画面で、画像を見る機会が増えたことが挙げられる。さらにデジタルカメラの普及によって、ディスプレーに写真を表示する行為が、大変簡単になったことも理由に挙げられるだろう。
デジタル一眼レフカメラの普及は「写真を作品として楽しむ」ユーザー層を大きく拡大した。コンパクト機に比べて、大きな撮像素子を持つ一眼レフ機であれば、被写体の一部分だけにバッチリとピントを合わせ、それ以外の部分をぼかして、その部分の印象を強める作品作りも容易だ。
このような写真表現にこだわるユーザーは、少々のボケでも輪郭を強調してばっちり見せてしまう「動画用の画作り」を受け入れがたく感じる面もあるだろう。こういったニーズをくみ取る形で開発されたのが、ブラビアのプレミアムフォトモードということになる。かなりマニアックというか、通好みの仕様である。
プリントのコストも、劣化の心配もない
大画面で写真を奇麗に表示する。この、シンプルかつプリミティブなポイントは、一眼レフユーザーの関心を集めるポテンシャルを持っていると筆者は考える。写真を長く続けている方なら分かると思うのだが、うまく撮れた写真は、やはり大きく引き伸ばしてプリントしたくなるものだ。
ところが、大判プリントはお金がかかる。1枚で済めば我慢できる金額かもしれないが、納得のいくプリントに仕上げようと思ったら、それこそ同じ写真を10通りにプリントして見比べることだって当たり前なのである。そんなことを続けるには、相当な出費を覚悟しなければならないのは言うまでもない。
液晶パネルで大延ばしの写真が鑑賞できるのであれば、「プリントに大枚をはたくよりもずっといい」と思う人が出てきても不思議ではない。プリントは、色褪せするので保管にはあまり向かないし、しまいこんでしまうと今度は引っ張り出すのが面倒だ。デジタルデータのまま運用できるメリットは意外に存在するのである。