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【短期集中連載】新聞はネットに飲み込まれるか? 第4回

「紙はウェブより上」であるべきか? 毎日新聞が既成概念を破壊する日(後編)

2007年10月31日 19時00分更新

文● 松岡美樹

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まちがいも含まれる「CGM」は新聞のスタンスになじまない?


 たくさんの人たちから膨大な情報が寄せられる。その情報量の多さと多様性がCGMの魅力である。ただし集まる情報のすべてが正しいわけではない。だから読み手自身が自己責任で情報の真贋を判断しなければならない。これがインターネットの作法であり、常識だ。

 ところが新聞社は情報の正確性を限りなく追求する集団である。自分たちが発信する情報の確度を保証する義務や責任もある。この点がややもするとインターネットの特性となじまない。

 「アルファブロガーの方のお話をうかがうと、『ネット上にある情報の90%はどうでもいい内容です。だから残り10%の情報がどれなのか、ユーザ自身が見抜く力をもつべきだ』とおっしゃる。ですがこの発想は新聞の情報発信には合いません。

 われわれは毎日新聞というブランドを背負っている以上、『これだけたくさん情報があります。みなさんでこの中から本物を選んでください』とか、『そこにはウソもたくさん混じっているかもしれません。みなさん自身で勝手に判断してください』というわけにはいかない。もしかしたら将来的にはそんな方法論が成立するかもしれませんが、少なくとも今のところは現実的ではありません」(高島氏)


 「これが真実だ」と一方的に記事を送り出す新聞の紙面作りでは、情報の価値判断をすべて新聞社自身が行う。いや新聞だけでなく、いわゆるプロが作った既存メディアはすべて同じだ。だが実はこの構造にこそ、読者のメディアリテラシーがなかなか育たない原因が隠されているのかもしれない。

 自分がいま読んでいる記事はプロが書いたものであり、情報の確度や客観性は保証されている──。そう考えて読者は記事をうのみにする。「記事にはこう書かれているけれど、別の角度から見ればどうなんだろう?」なんてことは、よほどのもの好き以外は考えない。だから既存メディアにとって情報操作など簡単だし、その気になれば大衆を洗脳することもできる。

 だがウェブの世界、特にネットユーザー自身が作るCGMはどうだろう。そこに書かれているのは真実かどうか? 自分の頭を使い、自分の目で見て読んだ人自身が判断しなければならない。ふだん「何も考えず」に読んでいる新聞とはちがうのだ。情報の価値判断をするに当たり、だれも手助けしてくれない。決めるのは読者自身である。

 とすれば必然的に、読み手のメディアリテラシーはだんだん磨かれていくのではないか? 実は筆者がCGMに期待する副産物のひとつがコレである。



ウェブで訂正記事を出す毎日新聞の朴訥さ


 さて毎日新聞では、誤報を流してしまった場合、ウェブ上に訂正記事をのせている。これはかなり異例なことだ。

 インターネットの世界では、途方もない数の情報が右から左に通り過ぎていく。情報量が多くなればなるほど、作り手の側も読み手の側も、それらひとつひとつに手間と時間をかけて向き合うことなどむずかしくなる。そんななか、ウェブで訂正記事を出すのは毎日新聞ならではの情報に対するこだわりだ。

 「メディアが信頼を得るためには努力が必要です。そのためウチは記事をまちがえた場合、ネット上ですぐ訂正します。たとえばヤフーさんに誤報を配信してしまったら、『まちがえました』という訂正記事をまたヤフーさんに送る。これは信頼を守るための作業です。こんなことをやってる新聞はウチだけじゃないですか?」(高島氏)

 新聞にのる情報は正確でなければならない。だがその新聞にもまちがいはある。実は報道機関にとっていちばん大切なのは「まちがえた場合にどうフォローするか?」なのである。

 まちがいを隠そうとしたり、目立たなくしようとするのは最悪だ。読者はそんな態度を鋭く見抜き、たちまち信頼は地に落ちる。

 とすれば、ウェブ上で訂正記事まで出す生真面目で朴訥な毎日の社風が、ネットユーザの支持を得るのはひょっとしたらそう遠い日のことではないのかもしれない。


松岡美樹(まつおかみき)

新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの「RBB TODAY」や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。自身のブログ「すちゃらかな日常 松岡美樹」も運営している。

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