ASP・SaaSはこれからが本番
津田氏は「ASP・SaaSはこれからが本番」と主張する。2008年には1兆円市場となり、その後も右肩上がりに成長するというのだ。
「MITコンピュータサイエンスラボの所長、マイケル・ダートウゾス教授の著書に、飛行機の中で新しいパソコンをいじっていたときのエピソードが書かれています。何回やってもエラーが出るので、そばにいたWebの発明者、ティム・バーナーズ・リーに助けを求めましたが、1時間後、彼はお手上げだと降参しました。そこで今度は、RSA公開鍵暗号の発明者、ロナルド・リベストに助けを求めましたが、あっさりと断られてしまいました。この3人はコンピュータに関して無能なのでしょうか。そんなはずはありません。世界トップレベルのコンピュータ関連の学者たちでも歯が立たない。それが現在のパソコンなのです」
コンピュータとそれに関連したICT(情報通信技術)の世界は、あまりにも進歩してしまったために複雑、難解になりすぎている。3人の話は、それを端的に表しているのだ。
「コンピュータがあまりにも肥大化、複雑化してしまったので、普通の人たちの認知能力を超えてしまっているのです。すでに高度な設定などは、パソコンオタクでなければ扱えない状況になりつつあります。このままいけば、すべてのコンピュータにSEを常駐させなければ使えないという社会になってしまうでしょう」
そんな困った世の中にしないためには、コンピュータのお守りに関することをすべて専門家に任せ、ユーザーは自分のやりたいことだけに専念できる態勢にしなければならない。それには、ブロードバンドのネット越しにアプリケーションを使う、ASP・SaaSが一番適している。
「何のためにブロードバンドが普及したのかを考えてみなければなりません。大きなファイルを素早くダウンロードするためでしょうか。それだけではありません。ASP・SaaSのためだったのです。ネット対戦のゲームも、オンデマンドの映画も、じつはASP。Google Mapも、無料のASPです。ASPの誤った失速報道から5年、やっとASP・SaaSが実力を発揮するときが来たのです」
特別な訓練なしに、すべての人がコンピュータを使える。専門家を雇わなくても、企業が使いたいだけコンピュータを使う。そういう理想的な社会が、ASP・SaaSの普及によって実現する。
「今、自治体へのASP・SaaS導入が進んでいます。大企業と違って、自治体はコンピュータの専門家があまりいません。しかし仕事は複雑になる一方ですから、ASP・SaaSによって効率化を図ろうというわけです。これが実現すると、1~ 2兆円のコストダウンが実現するといわれています」
自治体と同様、学校や中小企業も状況は同じ。専門家を雇うことはむずかしいが、効率化したいというニーズは大きい。これらにもASP・SaaSが導入されれば、日本全体での効率化が図れる。同時に、ICT業界に大きな経済効果をもたらすことにもなる。ASP・SaaSはこれからが本番なのだ。
●日本におけるASP・SaaS関連市場の推移と予測
著者・津田邦和(つだ くにかず)氏プロフィール
1954年札幌市生まれ。1978年に電気通信大学を卒業後、リコーに入社。1999年にASPICJapanの設立に参加し、現在常務理事。総務省「公共ITのアウトソーシングに関するガイドライン研究会」の取りまとめや、総務省ASP・SaaS推進協議会委員、東京都昭島市IT化3カ年コンサルプロジェクトなどを手がける。その他多数の自治体委員に就任。