今月20日に「第20回東京国際映画祭」(20th TOKYO INTERNATIONAL FILM FESTIVAL、略称:TIFF2007)が始まったが(関連記事)、同時開催の関連企画として海外から熱い注目を集める日本のアニメーション作品を紹介する「animecs TIFF 2007/世界が注目するアニメーションの作り手たち」が開催されている。animecs TIFF 2007は、六本木会場とともに「TIFF in AKIHABARA 秋葉原エンタまつり」で賑わう秋葉原会場の秋葉原UDXアキバ3Dシアターにおいても開催されている。
世界の4大アニメ映画祭を総なめにした
山村浩二監督の4作品がオープニングを飾る
開催初日(20日)の午前、まだレッドカーペットも敷かれていない六本木ヒルズのTOHOシネマズで、熱心なアニメーションファンを集めてオープニング作品の上映が行なわれた。オープニング作品に選ばれたのは、アニメーション作家・山村浩二監督の最新作「カフカ 田舎医者」だ。
カフカ 田舎医者は9月に「オタワ国際アニメーション映画祭」で日本人初のグランプリを受賞した作品で、当日はまさに凱旋上映となった。山村監督と言えば、「頭山」でアニメーション映画祭の最高峰である「アヌシー2003」(フランス)をはじめ、ザグレブ(クロアチア)、広島と国際アニメーションフィルム協会(ASIFA)が公認するアニメーション映画祭で日本人初のグランプリを次々と獲得しており、今回のオタワで世界4大アニメーション映画祭のすべてを征するという快挙を成し遂げた。芸術性の高い短編作品で世界的に評価されている山村作品だが、「アカデミー賞短編アニメーション部門」にもノミネートされるなど、幅広く世界から注目されている、目の離せないアニメーション作家と言える。
オープニング上映では、カフカ 田舎医者をはじめ、過去作である「頭山」、「年をとった鰐」、「こどもの形而上学」、「校長先生とクジラ(劇場用CM)」の全4作品が上映された。
上映に先駆けて、山村監督による舞台挨拶が行なわれた。アニメ作品の題材としてカフカ作品を選んだ理由について、山村監督は次のように語った。
「カフカには学生の時に出会いまして、感じ入るものがありました。世界全体の不透明さや不安が、10年前、20年前よりも増してきていると思います。(今回、題材として取り上げたのは)そうした今の状況がカフカに通じるものがあったからです。それからこの原作はアニメーションに向いていると思ったからです。アニメにしたら面白くなるという確信がありました。(その理由は)アニメは1枚1枚絵を積み重ねることで、ゼロから作り上げるメディアです。この原作にある心理的な伸び縮みがアニメを創る上でフィットしていました」
オタワで4冠を成し遂げた山村監督だが、「海外での反応は?」という質問に対しては、「頭山は日本人でなければ分かりにくい面があり、海外で受ける想像はしませんでしたが、海外でもカフカはよく知られているということがありました。(カフカ 田舎医者は)エンターテインメント性が高く、ユーモアもある原作で、動きを見ただけで笑いが起きました」と述べ、「みなさんも力まず楽しんで観てください」と語った。
カフカ作品の翻訳を手がける池内氏も
「カフカが喜ぶだろう」と絶賛
上映終了後には、カフカ作品の翻訳を手がけ、ドイツ文学研究の第一人者であるエッセイストの池内 紀氏と山村監督の2人に対して司会が質問をするという形でティーチイン(監督・出演者と観客との質問形式の対談)が行なわれた。
池内氏はカフカがアニメになったことについて、「『田舎医者』は映像にしやすい作品だと思っていましたが、意表を突かれました。これだけの作品のなるとは、やられたと思いました。田舎医者は僕の中で目、鼻、口など、仮のイメージを持っていましたが、(それを)映像化していただいた」と、手放しで歓迎した。翻訳者でカフカ研究の第一人者である池内氏とは初対面だった山村監督は、それまで固く緊張した面持ちだったが、池内氏のこの言葉で一気に表情がほぐれ、2人は旧知の間柄のように打ち解けた対談になった。
「『カフカは難解』とよく言われますが」という質問に対して池内氏は、「本来、身振り手振りで話してみせるような作品で、映像化にふさわしいと思います。ギャグもたくさんあるんです」と語ると、山村監督は「笑ってもらえるエンターテインメント性のある作品なんです」と重ねた。さらに池内氏は「著者も映像化されてうれしいだろうと思います。本人が生きていれば、まず大いに喜んで、その後で『私ごときが山村さんに作っていただけるとは』と、ちょっぴり皮肉っぽく言ったでしょうね」とカフカの人となりを思い浮かべながら語った。
狂言役者を声にキャスティングしたことについて、山村監督は「狂言でやることを思いついてから、これなら面白くなると思いました」と述べると、池内氏は「狂言スタイルだったことで、これは成功した。訳者冥利につきると思いました」と語った。キャスティングされた人間国宝の茂山千作氏を初めとする茂山一家は、狂言の枠にはまらずさまざまな活動を展開している。女中のローザ役を芥川賞作家の金原ひとみさんにお願いしたことについて、山村監督は「ローザだけは男性が演じると違和感があると思っていました。役者臭さは欲しくないと思って、なかなかいい方が見つからずにいたのですが、たまたまラジオで金原さんの声を耳にして、これしかない、と思ったんです。金原さんは気軽に二つ返事で引き受けてくださったのですが、実際には相当苦労されたようでした」と述べた。
次回作について聞かれると、山村監督は「次回はカフカではなく、時間をテーマにしたオリジナルです」と述べた。それを受けて池内氏は、「内田百聞の短編なんかいかがでしょうね?」と聞くと、山村監督は「実はそれも考えています」と笑顔で応え、すっかり意気投合した様子だった。