新聞が提供する情報だけが正しいなんて、決して言えない
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「旧来の既存メディアは自分たちだけで情報を取っていました。とはいえわれわれが集められる情報は限られています。一方でネット上には新聞記者が決して知り得ない、その場に立ち会った人間でなければ知るはずのない情報が書き込まれている。もちろんそれが本当なのかウソなのかはわからないんですが、これらの情報を新聞社がもっている情報とリンクさせれば、まったく別の価値が出ることはまちがいない。
もはや新聞社が一方的に価値判断をし、『われわれが提供する情報だけが正しい』なんて決して言えない状況なんです。われわれとしてはその中で、玉石混交の石をはじいて宝物を探し出せるような報道やメディア運営のあり方、読者とのコラボレーションのしかたを見つけられればと考えています」
新しい冒険に対する抵抗感が少ない、それが武器
こんなふうに、もともと全国紙としては「挑む立場」にある産経には、新しい冒険に対する抵抗感が少ない。それが業界のタブーに挑戦する原動力にもなっているようだ。
「産経新聞は全国紙としては朝日、読売、毎日、日経に続く5番手です。そのため伝統的に本紙以外にもたくさんのメディアを作る『多メディア戦略』を取ってきました。本来の『報道』をやりながら、エンターテインメント的な、収益を生むための媒体も作ってきている。ほかの新聞社とくらべれば、企業としての生き方がかなりちがうんです。
だから新しいメディアを作って収益を上げるのは自然な流れであり、それが今度は紙ではなくウェブだというだけの話ですね。もともとわれわれはタブロイド紙や雑誌も多く手がけていますから、新しいものに対する違和感はありません」
広告モデルは正直言ってしんどいが……
では一方、肝心な収益モデルについてはどう考えているのだろうか?
「やはり本当は有料課金モデルがきちんとあればそのほうがありがたい。ですが広告モデルでやろうという業界の流れに抗するのは難しい。課金して何万人単位の人たちに読んでもらうより、すべて無料にしてもっと人をたくさん集め、そこで広告を出したほうがより収益が期待できる、という流れですね。
もっとも新聞業界ではこの一年ほど、『インターネットで広告モデルといっても、結局はヤフーの一人勝ちじゃないか』みたいな議論がありました。広告モデルだけで食っている新聞社はないだろう、と。だからヤフーに記事を提供するのはもうやめたほうがいいんじゃないか? 自分たちは自分たちで大事なコンテンツを守り、それで成立するビジネスを考えたほうがいいんじゃないか? という議論ですね。
ところがわれわれにしてみれば、これは『紙を守る』議論と同じなんです。インターネットの時代になり、もはや新聞社ひとりだけでは生きていけない。じゃあ、よりよい形にするために、どういう提携のしかたがあるのかをわれわれは考えたい。で、今回、マイクロソフトさんといっしょにやる。同じようにヤフーさんやグーグルさんとも緊密につきあっています。
まあ広告モデルはまだ正直なところ、しんどいんです。そこでわれわれとしては広告モデルに長け、かつIT業界のビッグスリーである企業とおつきあいし、ノウハウを吸収しようとしている。産経デジタルは今年で実質的には二年目ですが、実際にいくつかの事業が効果を上げ始めており、4年目の単年度黒字を掲げた初期の目標を前倒ししようとしているところです」
*
果てしなく広がるインターネットの地中深くには、どこかにすごい金鉱が埋まっているんじゃないか?
これはIT系の新ビジネスを興すとき誰もが考えるシナリオだ。その中で産経デジタルは、近藤氏の言葉を借りれば「いろんなところにボーリングをしている最中。まだ砂浜で砂金を少しづつ取っている状況です」という。
だが「新聞の自殺」とまで言われたタブーを破るスタンスを1年、2年と続けたとき、その先にはいったい何があるのか? 産経ならずとも興味津々なところである。
松岡美樹(まつおかみき)
新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの「RBB TODAY」や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。自身のブログ「すちゃらかな日常 松岡美樹」も運営している。
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