「最も成功しているSaaS」として、あるいは強力なライバルとして、ITベ ンダーの必ず口にする名が「セールスフォース・ドットコム」だ。抜群の知 名度と実績を誇るその秘密をここで今一度明らかにしておこう。
Salesforceは、世界中で利用者数を右肩上がりに獲得し続けているSaaS型のCRMアプリケーションだ。最近では日本郵政株式会社が採用を決めるなど話題にも事欠かず、競合サービスの参入も促して、SaaS市場のリーダー的存在になっているとも言えよう。ただし、もはや「SaaS」あるいは「CRM」というキーワードだけで、同サービスが躍進する真の理由を説明することは難しい。ここでは三つに絞ったポイントを元に、彼らの強みを読み解いていきたい。
【Point1】ビジネスモデルとしてまず「SaaS」、次に「CRM」を選んだ
一過性のブームと見なされたASPに対して、同じコセンプトを持つSaaSが成功した要因はいくつか指摘されている。たとえばサーバーやストレージなどデータセンター資源の利用効率を向上させる「マルチテナント型ホスティング」、あるいは「ユーザーによるWebアプリケーションのカスタマイズ」などがそうだ。これらの技術やサービスモデルは、もともとセールスフォース・ドットコムが確立し、浸透させたものに他ならない。設立当時(1999年)、同社はまだ強敵の少ないオンデマンド型アプリケーションの開発・提供にビジネスの照準を定めていた。このビジネスを確実に成功させするため、サービス提供基盤の確立には特に力を注ぐことになる。選んだアプリケーションはSFA、さらにCRMと発展していくのだが、その理由も当時は競争相手が少ない分野だったからだという。ある業務分野のアプリケーション開発と提供に専門特化していくことが同社の長期的戦略ではない。あくまでオンデマンド型のアプリケーション提供が同社ビジネスモデルの大前提であり、核心なのだ。
【Point2】ユーザー企業やベンダーにもビジネス参画の余地を与えた
セールスフォース・ドットコムのサービスモデルにおいてもっともユニークな点を挙げるとすれば、追加が極めて容易な拡張機能「AppExchangeアプリケーション」を集めた同社Webをマーケットプレイスとして公開している点だろう。標準機能していない機能のニーズに応えるため、拡張機能用の開発言語「Apexコード」を同社は発表した。これにより開発されたAppExchangeアプリケーションはいわばWebブラウザにおけるプラグイン、あるいはホームページをパーソナライズするためのガジェットに似た役割を果たすものだと思えばいい。ユーザー自身が開発したものも、あるいは外部のベンダー(いわゆるサードパーティ)が開発したものも同社サイト内で登録・公開できるのだが、それだけでなく、有料で販売することも可能なのが重要だ。つまり拡張機能用アプリケーションを一種シェアウェアのように流通させることもでき、セールスフォース・ドットコムの「ユーザーの、ユーザーによる、ユーザーのための」ビジネスに参画できる場を用意していることになる。従来の業務用パッケージソフトとは異なる角度でユーザーにメリットをもたらす発想といえるだろう。
【Point3】「バイラルマーケティング」で裾野を拡大していった
顧客サービスに注力しているのも、従来のベンダーには見られなかった「今風」の姿勢だ。同社がユーザーを獲得していく拡販の過程で頼った手法はもともと「クチコミ」、すなわち「バイラルマーケティング」だったという。広告やEコマース分野では、ネット上で非常に良好な結果をもたらす手法であることは今でこそ認知されているが、1999年という設立時期を考えれば、クチコミに頼るというのはずいぶん思い切った選択、という感想を多くのベンダーが持つのではないだろうか。
ユーザーの評価がそのまま宣伝材料となるため、同社がユーザーを手厚く待遇するのは必然といえる。パッケージソフトのような「売り切り」商品でもないため、継続的な顧客サービス提供は競合との差別化を成功させるカギでもある。
たとえば同社では各種トレーニングプログラムやセミナー、ユーザー向け情報サイト「Successforceコミュニティ」、さらに年に一度米国で大々的に行われるイベント「Dreamforce」などを開催している。