購入者がアルバム価格を自由に決められる
── こうしたアーティストがレーベルから独立するという現象は、ほかにも起こっていますか?
津田 直近の大きな話題としては、英国の大物バンド「レディオヘッド」※の最新アルバム「In Rainbow」ですね。
彼らは今回レコード会社から完全に離れて、自分たちでこのアルバムを制作し、音楽配信という形で自分たちの公式サイトでダウンロード販売しました。ダウンロード販売自体は珍しい話でも何でもありませんが、このアルバムがすごいところは、ダウンロード時に購入者が自分で好きな価格を決められるところにあります。
僕も6ポンド(約1400円)払って「In Rainbow」を買ってみましたが、驚くほどあっけなく購入できました。ちなみに、ダウンロードされるのはZip形式の圧縮ファイルで、その中に160kbpsのMP3ファイルが10曲入っています。
同時に驚かされたのは、このアルバムは0ポンド、つまり無料でも入手できるんです。無料ダウンロードの場合はクレジットカード手数料すらかかりません。僕も6ポンドで購入したあとに、0ポンドを選んで試してみましたが、問題なくダウンロードできました。
※レディオヘッド(Radiohead) 1985年、英国・オックスフォードにて結成されたロックバンド。1993年発売のファーストアルバム「Pablo Honey」からシングルカットされた「Creep」が世界的に大ヒットして支持を集める。2003年には日本有数のロックフェスティバル「サマーソニック」でヘッドライナーを務めた。
── タダでも買えるとなると、お金を払う人はほとんどいないんじゃないでしょうか?
津田 いや、そうでもないんです。レディオヘッドのマネージャーであるブライス・エッジ氏が「Billboard.com」のインタビューに答えたところでは、平均4ポンド(約1000円)で、そこそこダウンロードされているようです(インタビュー記事)。
この4ポンドで仮に10万ダウンロードされた場合、1億円の売上がレディオヘッドの手元に入ることになります。例え5万ダウンロードだったとしても5000万円と、自分たちで制作費やサーバーの運営コストなどを払ったとしても、十分お釣りは来る金額です。今回の結果次第では、既存のレコードビジネスを大きく変える可能性はあります。
もちろんこれは、ある程度名前が知れ渡ってて、固定ファンが多いアーティストのみできる戦略なのでしょうが。
(次ページに続く)
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