前回、発作的にタイ郊外へと旅立った筆者。三等客車に揺られてたどり着いたのは、タイ国鉄最大級の絶景を拝める「カンチャナブリー」だ。

小クウェー川の水位が上昇しているおかげで、枯れ木や流木などがすべて水没しているのでキレイに見える
世界的に有名な観光地「カンチャナブリー」にやってきた。タイ国鉄の窓の開け放たれた三等客車に長時間乗車していたおかげで、列車の減速時のブレーキシューの焼けるにおいや、車輪やレールの摩擦によって生じる鉄粉のにおいにまみれてしまったが、そんなものは水浴び1回で取れてしまうので気にすることはない。
チェックインした安宿は、バンコクの快適なアパートとはまるっきり違う。温水シャワーもエアコンも水洗トイレもない。けれど、これこそボクが落ち着く環境だ。いくつになっても若いころの放浪生活の習慣が忘れられないらしい。
カンチャナブリー滞在の目的は、タイ国鉄最大級の絶景の撮影だ。発作的に始まった旅だが、やることだけは到着前に決めておいた。そうしないと、何もしないでただ時を過ごす「沈没モード」に入ってしまうからだ。
旧泰緬鉄道で結ばれるバンコクとカンチャナブリー
カンチャナブリーが世界的な有名観光地となったのは、英国映画「戦場にかける橋」の影響が大きい(内容はDVDなどでご覧いただきたい)。第二次世界大戦中に旧日本陸軍の指揮の下で作られた「泰緬鉄道」(たいめんてつどう)は、戦後に一度連合国に接収されてからタイに売却された。その時点で泰緬鉄道はタイ国鉄ナムトック支線として第二の人生を歩むことになった。
一方、泰緬鉄道で運用されていたC56型蒸気機関車だが、タイとミャンマーの連接を解かれた事情によって離ればなれとなってしまった。両グループはそれぞれ別の運命を歩むことになるが、それはまた別の機会に……。
タイとミャンマーの鉄道の連接がかなりの難事業であったことは間違いない。なぜなら、旧泰緬鉄道であり現在ではタイ国鉄ナムトック支線の車窓を眺めているだけで、「よくぞこんなところに鉄道を通したものだ」と驚かせられる難所が目に付くからだ。しかし、地形的な克服を果たした場所が多い鉄路ということは、それはそのまま絶景が多い路線ということを意味する。

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- 第3回 タイ国鉄三等客車で出会った人々を撮る
- 第2回 あえて鉄道より「背景」を大きく撮ろう
- 第1回 アジアの大地を走る「ブルートレイン」
- 第-1回 斉藤博貴の“タイ鉄道写真紀行”〈目次〉
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