車内での人物撮影は露出のプラス補正が吉!
窓が開けっ放しの客車内で人物を撮影する場合は、自動露出で撮るなら露出補正が基本だ。それは窓の外の明るさにだまされて、主題であるはずの人物が露出不足によって暗めに描写される失敗を避けるためだ。露出ブラケットによる連写撮影もしておけば、狙った露出を大きく外すこともないだろう。
標準ズームでは、広角側が通常28mm。あっても24mmなので、狭い車内では人物と背景を一緒に写すことは難しい。もし、実効焦点距離17mmくらいをカバーする超広角ズームレンズがあればもっといろいろな撮影ができる。しかし、レンズを交換しながら撮影するほどに熱中すると、折角の鉄道旅行の方を楽しめなくなってしまう。実は個人的には、写真の画角の違いにこだわるよりも、記録するべき思い出作りにこだわった方が、結局はいい結果が出ると考えている。
サーラーヤー駅を発車してしばらくすると、隣のボックスが空になったのでJちゃんとママは、離れた座席に座っていたパパを呼んで家族3人で集まることができた。安心したのか、全員がそのまま熟睡モードに入ってしまった。
列車は15時30分になって、車窓からも見える巨大な仏塔で有名なナコン・パトム駅を通過した。そのあたりで、ボクの座るボックスに顔はちょっと怖いけれど優しいおじさんがやって来た。「おい、線路沿いに野焼きしてるぞ。撮れ!」、「あれは友達の家だ。撮れ!」と撮影指導をしてくれる。「あなたの事も撮りたいんですけど」とモジモジしながら言い出すと、おじさんも苦笑いしながら「ん~撮れ!」とナイス・レスポンス。
南幹線から2本の支線が分岐するノーン・プラードゥック分岐点を発車したあたりで、車内の人物と車外の流れる風景を一緒に描写できないものかと、2通りに露出補正を行なって撮影した。どちらがいいかは好みが分かれると思う。ボクも見たときの気分で決まりそうだったので、両方撮影しておいた。さすが無料で何通りにでも撮れるデジタル。これで後悔しないですむ。
ノーン・プラードゥック分岐点は、旧泰緬鉄道(たいめんてつどう:第二次世界大戦中に日本軍によって建設された鉄道)であるナムトック支線とスパンブリー支線の起点駅だ。かつてはミャンマーのタンビュザヤまでの約420kmを連接していた旧泰緬鉄道の鉄路は、今ではサイヨーク滝観光の拠点となるナムトック駅を終着駅としている。映画「戦場にかける橋」のクワイ川鉄橋だけでなく、チョンカイの切り通し(カオプゥン山)やアルヒル桟道橋(タム・グラセー橋)等の難所は、今でも列車が往復している。
最後に、何の役にも立たない鉄道タイ語講座。タイ語で機関車は「ロットチャク」、寝台車は「ロット・ノーン」、駅は「サタニー・ロットファイ」、普通列車は「ロット・タンマダー」、近郊列車は「ロット・チャーンムアン」。1オクターブ声を高めにして喋ると通じやすいかも。
筆者紹介─斉藤博貴(さいとう ひろたか)
執筆から編集までこなす鉄道系カメラマン。タイとカンボジアの鉄道を調査するために1996年より約5年間バンコクに滞在した。特技は英語とタイ語で、ライフワークは海外鉄道の撮影。最近では世界遺産として登録されたインドの「ダージリン・ヒマラヤン鉄道」と「ニルギリ登山鉄道」に通うようになった。著書に「技術のしくみからデザインまですべて分かる鉄道 (雑学を超えた教養シリーズ) 」(誠文堂新光社)がある。
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