中小企業にフォーカス、地場のパートナーときめ細やかなサービスを
――ターゲットは完全に中小企業に絞り込むのですか。
松島氏：もちろん、市場として拡大していく見込みがある、ということもありますが、社会的な意義を含め、我々は中小企業にフォーカスしたいと考えています。
ITの武装化に課題を抱える中小企業に対して、優れた戦略的なデータベースを持つ大企業は、ますます有利な立場での取引を求めてくるでしょう。このまま大企業とのITの格差が広がれば、中小企業の持っている良さ、強みも失われてしまうのではないか、と危惧しています。
また、日本には優れた技術を持つ製造業をはじめとするすばらしい中小企業がたくさんあります。地方から全国、あるいは世界に対して、インターネットをうまく使ったビジネスをしたいと考える中小企業の方も多くいらっしゃるでしょう。こうした方々に対しても、ネットスイートがお役に立てるのではないかと思います。
―― 一方で、ネットスイートやセールスフォース・ドットコムのような外資系ベンダーの製品は、中小企業には「使いこなしが難しい」「分かりにくい」との声もあります。
松島氏：確かに、ネットスイートは統合業務アプリケーションですから、非常に機能が豊富です。しかし、逆に必要に応じて機能を削っていくことで、ユーザーが必要とする画面やシステムに作り込めるようになっています。これまでのシステムのように、足りない機能をオプションを追加していく方法とは対照的です。
また、多くのビジネスパートナーと手を組み、かゆいところに手が届くようなサービスを提供していきたいと考えています。それも、なるべく地場のパートナー企業と一緒になって、きめ細やかなサービス、サポートを提供できる体制を整えたい。中小企業であれば、電話一本で直接駆けつけてくれるほうがありがたいわけですから。
――先日の記者会見（関連記事）でも、パートナー戦略を強調されていましたね。
松島氏：パートナー企業については、戦略／販売／サポートに加えて、パートナー企業独自のサービスと当社のサービスを組み合わせて提供するOEMパートナーも開拓します。これによって、人事管理などのネットスイートが持っていない機能をカバーできるようになります。
さらに、ネットスイートの特徴であるカスタマイズ機能を利用して、中小企業向けの経営コンサルタントなど、各業種・業態に対する業務系の専門知識を持った方にもビジネスチャンスが広がる可能性があると思います。
――日本法人としての当面の目標は。
松島氏：今年に限っていえば、米国本社から私に課せられているのは売上の拡大ではなく、顧客満足の向上です。SaaSは、いつでも契約して止められるメリットがありますが、逆に我々にとってはすぐにお客様が離れてしまう恐れもあります。つまり、顧客満足なくして、このビジネスの維持向上はない。収益に直結しているわけですから、売り切りは無理です。
幸いなことに、ネットスイートの欧米での解約率は非常に低く、逆に競合他社からの乗り換え率は高い状況にある。結果として、グローバルでの2006年度（2006年1月～12月）の売上は、前年度比で84.8％増の驚異的な成長を遂げることができました。顧客満足度が低ければ、こうした数字を獲得することは難しいでしょう。
――では最後に、中長期的な取り組みについての抱負をお聞かせください。
松島氏：売上を確保することはもちろんですが、それ以上に大切に考えているのが、社是や企業理念の浸透です。日本の中小企業に対して、既存のインフラを有効活用できるサービスによって、本当の意味でのIT化、すなわちITの武装化を促進していく。それによって、大企業に対してITを使った攻防戦を張れるようにし、さらには優れた製品を持っている企業が、全国や海外に発信していくことを手助けしたい。これを当社の企業理念として、中小企業と一緒に成長していきたいと考えていますし、私もこれまで培ってきたノウハウで貢献したいと思っています。
ネットスイート株式会社 代表取締役社長 松島 努氏
1983年に慶応大学工学部卒業後、日本IBM入社。その後、モトローラ、コンピュータアソシエイツ（現 日本CA）副社長、ブロケード コミュニケーションズ システムズ代表取締役社長、フェニックステクノロジーズ代表取締役社長、EMCジャパン執行役員を経て、今年8月、ネットスイート代表取締役社長に就任。
