「着うた」は飽和状態?
── 世界的にDRMフリーの波が広がる一方で、日本だけ取り残されている印象があります。音楽配信サービスを手掛ける日本の企業からは、DRMフリーを始めようという意見は出てこないんでしょうか?
津田 日本でもEMIが親会社の意向でDRMフリーの楽曲を販売していて、そこそこ売れているとは聞きますが、先ほども言ったように、日本では「着うた」が儲かっている状況があります。「着うたが売れているなら、価格やDRMの点で譲歩する必要はない」というのが、音楽業界の本音ではないでしょうか。
といっても、着うたフルも飽和状態になってきていて、そろそろピークを過ぎるではという見方もあります。着うたが本当に売れなくなったら、DRMフリーやパソコンへの音楽配信に力をいれるかもしれませんが、そのあたりの状況も見つつ、今はまだ検討中という段階ではないでしょうか。
DRMはコピー回数を把握するために使うべき
── DRMは、インターネットで楽曲ファイルを違法にやりとりすることを防ぐために導入されたものですよね。結局、DRMを使わなければ、不正コピーは減らせないんでしょうか?
津田 そんなことはありません。例えば、iTunes Plusの楽曲はDRMフリーですが、ファイルには購入者の情報が埋め込まれているため、仮にインターネットに流出しても誰が流したのかはある程度の範囲で分かります。
現状のDRMのように複雑な制限をかけなくても、ファイルの身元が分かるというだけで、違法コピーに対する抑止力は作り出せるでしょう。
そもそもインターネットを検索すれば、不正にアップロードされたMP3ファイルはいくらでも見つかります。不正コピーを減らすなら、まずそうしたウェブサイトを減らす対策を取るべきではないでしょうか。
── 津田さんが考える「理想のDRM」は、どんなものになりますか?
津田 DRMは、コピーを制限するのではなく、権利者に著作権使用料を分配する目的で、コピーされた回数などをきちんと把握するために使うのが理想だと思います。
音楽業界は、コピーを無闇に禁止するのではなく、「プロモーションにもなる」とポジティブな面も認めて、その上でビジネスにつなげていくべきでしょう。例えば、「普通は210円だけど、420円で買うとポッドキャストにも使える」みたいな新しいライセンス体系を用意して、2次配信権込みで楽曲を売るなんて方法もありだと思います。
現状のようにDRMを単に取り払って売るのも悪いとは思いませんが、「デジタルコピーをどうビジネスに生かすか」という次の一手は考えておくべきです。ユーザーと権利者の双方が満足できる音楽配信サービスが構築できるかどうかは、これから数年が勝負になると思います。
筆者紹介─津田大介
インターネット媒体やビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するライター/ITジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。音楽配信関連の話題を扱うウェブサイト「音楽配信メモ」の管理人としても知られる。この8月に小寺信良氏との共著で「CONTENT'S FUTURE」を出版。
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