読者に正しく伝わる統計を探す極意
── 先ほどのお話で、統計によって「真実が歪められる」と言われていたのは、集計したデータそのものを嘘の数値に塗り替えるということでしょうか?
本川 それは滅多にないですけど、アンケートとか、元のデータを収集する調査対象にバイアスがかかっていることはよくありますね。また、どの係数を使うかということでも、色々印象を操作できます。僕は長年の経験による勘で、インチキくさい統計は避けています。基本的には官庁とか国際的な機関から取得したほうが、より信用がおけますよね。
それでも、信憑性の高い国際機関が作為的とも思えるデータも出す場合もあります。先日、OECD※が「相対的貧困率」というデータを出したんです。そこでは、日本はアメリカに次いで格差が高い国だと主張されていました。ほかのデータではそんな結果は出ていないのに。
じゃあ、その「相対的貧困率」って何かというと、その国の平均的所得の半分以下の人が何%いるかというデータなんです。平均賃金所得が若い人からお年寄りまで右肩上がりになっている国は、この公式では相対的貧困率がどうしても高くなるんですよ。若い時年収100万円で定年間近に1000万円になる国に比べて、一生を通して年収500万円の国のほうが相対的貧困率がすごく低くなる。
※OECD 経済協力開発機構。先進国が国際経済について協議することを目的とした国際機関。
── 平均のマジックってやつですね。
本川 そう。だから、そういう恣意的なデータを判断して、僕は載せないようにしているんです。
── そういった偏りがない客観的なデータを追求していくと、やはり学術的な難しい係数を使わないといけなくなるのでしょうか?
本川 それも問題なんです。あんまりデータの加工度を高くしすぎると、読む人にとってはよく分からなくなってくるんですよ。
例えば、日本の国際競争力を言及する統計で、為替レートや貿易の強さ、技術力といったいろんな指標を組み合わせたデータがあるわけですよ。客観性は高いけど、内容が複雑で専門的になりすぎるから、普通の人はなんのことやら分からなくなる。結果だけ見て納得しろって言われているような感じになるんです。
だから僕は、なるべく生に近いほうのデータのほうがいいと思う。読んでいる人が判断しやすい側面が強いじゃないですか。客観性というか、誰もが「なるほど」と思えるデータがいいですね。その情報を解釈する自由も与えられる。
(次ページに続く)
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