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オリジナルであること

2007年09月16日 21時23分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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アイデアの根底にあるオリジナリティー


 研究に限らず、我々が創造的な仕事をしていくうえで最も大切なこと──それは、オリジナリティーに対する固執、未来を見つめ続けること、そして時々先人たちの偉業を振り返り自分の踏破した距離を確認することだと考える。しかし、今の世の中は人のアイデアをベースにした改良型(incremental)で、しかも短期決戦、売ったもん勝ち的なプロジェクトが多すぎる。

 前回までは、MITメディア・ラボのタンジブル・メディア・グループで進めてきた自分の研究を駆け足で紹介してきたが、今回はその根底を流れるオリジナリティーに対する思いについて綴ってみたい。


Altoとの出会い


Xerox Star Information System
Xerox Star Information System(Courtesy of Xerox Corp.)

 商用機の世界におけるGUI(Graphical User Interfaces)の原点は、'81年に米ゼロックス社から発表された「Xerox Star Information System」にある。その前身となったのが同社のパロアルト研究所で開発された「Xerox Alto」だが、私が富士ゼロックス(株)の研究所で初めてAltoに触れたのは、Starが登場する1年前のことだった。

Xerox Alto
Xerox Alto(Courtesy of Xerox Corp.)

 Altoを見たときのショックと悔しさは、今も忘れられない。その感動とともに味わった自分自身に対する落胆は、その後の自分を新しいオリジナルな研究に駆り立てる大きな原動力となった。

 白い背景の上に、センスのよいビットマップ・グラフィックスを生かし尽くした多様なアプリケーションが躍るAltoのディスプレー。そのインタラクティブなソフトウェア群は、これまでミニコンやオフコンの文字端末しか体験してこなかった私の目に強く焼き付いた。マウス、マルチウィンドウ、アイコン、イーサネット、レーザービームプリンター──そのどれもが、私が知っていたメインフレーム時代のコンピューター概念を瞬時に打ち崩した。

 そしてその後、Starワークステーションを身近で使う機会に恵まれ、統合文書ソフトの奥深さや首尾一貫したユーザーインターフェースの美しさ、目にした画面をそのまま印刷できることの明快さ、そしてそれらインターフェースデザインの底流にあるオブジェクト指向の美学に深く感銘した。


出発点は衝撃と惨敗感


 この体験を通して、私の中にはいくつかの本質的な疑問が湧いてきた。

 誰がどうやってこんな素晴らしいアイデアを思いつき、ここまで完成した形に仕上げたのか? なぜ自分はインターフェースの研究に従事していながら、モダンなAltoに比べるとまるで石器時代のような文字端末の世界でしかモノを考えられなかったのか? そして、なぜ日本はこれほどのアイデアを思いつく人間をこの分野で輩出できなかったのか?

 ゼロックス社から生まれた未来の情報システムが備える先進性とあまりにも低かった自分の思考レベル、衝撃と惨敗感──人生の残された時間で、研究者としてどんな貢献を世の中に示せるのか、それを真剣に考え始めた。20代後半にさしかかったころの出来事だ。


(次ページに続く)

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