I/O BulbからUrpへ
都市計画のためのワークベンチにTUIを応用したのがUrpであるが、その前に、その原点となる概念「I/O Bulb※1」(入出力電球)について触れておかなくてはならない。
※1 '96年にジョン・アンダーコフラーが「I/O Bulb」のコンセプトを考案し、博士課程の研究テーマとしてコンセプトの具現化や一連のアプリケーションを開発。「Urp」も、「入出力電球」というI/O Bulbのコンセプトを検証するためのプロトタイプのひとつになる。Urpについての詳細は、アンダーコフラー/石井による次の論文を参照のこと:Underkoffler, J., and Ishii, H., Urp: A Luminous-Tangible Workbench for Urban Planning and Design, in Proceedings of Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI '99), (Pittsburgh, Pennsylvania USA, May 15-20, 1999), ACM Press, pp. 386-393.
I/O Bulbは、建築空間の表面やその上でのモノの操作に、新しいデジタルの「意味」を付与する「電球」として考案された。エジソンが19世紀後半に発明した「電球」はひとつの光源(1×1ピクセルの光)で部屋を明るくするデバイスなのに対して、I/O Bulbは高解像度かつ双方向の光の流れを生み出すデバイスである。例えば都市計画といったドメイン知識に基づき、建築モデルの表面から集めた光子のパターンを「解釈」し、そのアプリケーションにマッチした「デジタルの影と光」を物理空間に投射する。
I/O Bulbのプロトタイプは、ビデオカメラとビデオプロジェクターのペアで構成されている。机上のオブジェクトに光学的なタグを付加し、それをコンピューター・ビジョン技術を用いて認識・追跡している。計算されたデジタルの光や影はビデオプロジェクターによって机上に投影される。その投影位置を正確に調整することにより、あたかも机上のオブジェクト自身が影を落としたり、光を反射しているかのような幻想を作り出す。
Urpはこれを発展させたもので、建築の物理モデルをI/O Bulbが照らす机の上に置くと、そこにコンピューターが計算した影を投影する仕組みになっている。もちろん、Urpが描き出すデジタル・シャドウは固定されたものではなく、時刻などの前提条件を変更すればデジタル・シャドウも様相を変える。「時計」を用意して針を回せば、時とともに刻々と変化する影の影響を調べられるし、光の反射をシミュレーションするといったことも可能だ。
さらに、地上での風の流れを視覚化し、「風速計」モデルを動かして任意の地点での風速を測るといったこともできる。I/O Bulbを使って物理モデルにリアルタイムのコンピューター・シミュレーションの結果を投影すれば、デジタルに表現された都市空間を自分の身体のある空間と連続した世界で理解し、直接操作できるのだ。マウスとキーボード、スクリーンによるインタンジブルな表現と、Urpのように専門特化したタンジブルな表現では、どちらが専門家のワークベンチとして適しているか想像に難くない。
(次ページに続く)
この連載の記事
-
最終回
iPhone/Mac
Macintoshを通じて視る未来 -
第29回
iPhone/Mac
私のヒーロー -
第28回
iPhone/Mac
テレビの未来 -
第27回
iPhone/Mac
表現と感動:具象と抽象 -
第26回
iPhone/Mac
アンビエントディスプレー -
第25回
iPhone/Mac
切り捨てることの対価 -
第24回
iPhone/Mac
多重マシン生活者の環境シンクロ技法 -
第23回
iPhone/Mac
「プロフェッショナル 仕事の流儀」出演を振り返る -
第22回
iPhone/Mac
ニューヨークの共振周波数 -
第21回
iPhone/Mac
ロンドンの科学博物館で見た過去と未来 -
第20回
iPhone/Mac
アトムのスピード、ビットのスピード - この連載の一覧へ