インターネットに常時アクセスしている状態が当たり前になった昨今、セキュリティ問題はIT最前線で働く人だけでなく一般的なユーザーにとっても無視できない話題だ。セキュリティ問題はITに関わるすべての人にとって重要であるので、何ごとも正確な理解が求められる。たとえば、あちこちで目にする「ハッカー(hacker)」の意味を、あなたは適切に説明できるだろうか?
IT黎明期には、ハッカーの本来の意味をいちいち指摘する書籍や雑誌が多数あった。ところが、その後、ハッカーという言葉が本来とは異なる意味で定着してしまったために、その違いを指摘することが少なくなっていったのである。では本来のhackerとは、どういう意味なのか。「wikipedia」には次のように書いてあった。
hacker
A hacker is often someone who creates and modifies computer software or computer hardware, including computer programming, administration, and security-related items.(ハッカーとは、プログラミングやシステム管理、セキュリティ関係を含むコンピュータのソフトウェアやハードウェアを、作ったり修正したりする人のこと)
つまり、ハッカーとはコンピュータの知識や技術に長けた人を指す言葉なのだ。hackerという言葉の成立には諸説あるが、1960年代のマサチューセッツ工科大学で「雑だが上手に間に合わせの仕事をする」という意味で使われていたのが基と言われている。いうなれば、hackerはコンピュータの裏ワザに精通したエンジニアに与えられる尊称だったのだ。ところがhackerの中には、優れたコンピュータ技術を悪用する者もいた。こうした悪玉もhackerを自称したため、「hacker=コンピュータ技術を悪用する人」という誤解が広まったと考えられている。
こうした事態に、本来のhackerと悪玉hackerを区別する目的でcracker(破壊者)という言葉が生まれた。だがcrackerの認知度はさほど高まらず、hackerの誤用が一人歩きしてしまった。特に非IT系マスメディアや一般的なユーザーの間では、何の疑いもなくhackerを「コンピュータ技術を悪用する人」「不正アクセスを行なう人」という意味で使われている。
ところが近年、プログラマを中心にエンジニアの間で、hackを「(常識にとらわれない)工夫をする」という本来に近い意味が広まり、「ライフハック」など、特に素早い解決策や賢い方法を指す言葉として使われている。これはエンジニアが愛読する「O'REILLY社」の書籍が、一貫してhackを「(裏ワザ的な)テクニック」という意味で使っている影響であろう。つまり現在のhackerは、エンジニアにとっては尊称として復権し、一般的なユーザーには正反対の意味で使われているのだ。この認識の差を忘れてはならない。
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Illustration:Aiko Yamamoto

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