技術書やマニュアルなどIT関連の英文を読んでいて、「文章のおおよその意味は分かっているはずなのに、書かれている通りに実践してもなぜか上手くいかない」と悩んだ経験はないだろうか。
たとえばこんな一文。あるUNIX系OSのマニュアルにあった、アプリケーションをインストールするための解説のくだりである。
To install it, login as root, and issue the following commands from the console:
;cd /some_dir
;install xxxapplication
訳)インストールするためには、ルートでログインし、コンソールから下記のコマンド(cd /some_dir と install xxxapplication)を実行します。
ところが、この解説どおりに作業してもインストールは実行できなかった。なぜなのか。
実は、IT関連の英文では、文脈中に「前提」や「条件」を設定し、それを土台にして議論や解説を進めることがよくある。したがって、そうした前提や条件を認識しておかないと、文章の論点や議論の適用範囲を見誤ってしまう可能性があるのだ。先のマニュアルにあった一文も、そうした前提を要する文章ではないだろうか。そこで再読すると、この文章の少し前にこう書かれていた。
We will assume you've placed xxxapplication in /some_dir.
(xxxアプリケーションが、あるディレクトリに置かれていることを前提とします)
やはり、そうだった。前提となる「placed xxxapplication in /some_dir」を満たしていない限り、ルートでログインしようが、コンソールからコマンドを実行しようが、インストールはできなかったのだ。なお、ここに書かれている「assume(仮定する)」は、IT関連の英文に頻出するので素通りしがちだが、この単語を見たら「前提や条件となるものの説明なのだな」と理解するクセをつけておくといい。
また、このassumeと似た用法で使われる英熟語「From now on, ~(ここからは~)」も、覚えておくことをおすすめする。
The first thing to do is to press your Return or Enter key. From now on, we'll call it Retern.
(最初にすることは「リターン」もしくは「エンター」キーを押すことです。これからは、それをリターンと呼ぶことにします)
つまり、From now on, ~ が含まれている文章で述べていることが、その後の文脈の「前提」として使われるのだ。
そのほか、Preface(序章)の小見出しなどで書かれている「Prerequisites(前もって必要な、必要条件、不可欠な)」も要注意。このPrerequisites以下の文章に、本文を正確に理解する上で不可欠な「前提」や「必要条件」が記載されているからだ。
技術書やマニュアルは急を要する状況下で読むことが多いので、序章やポイントとなるセンテンス以外は、読み飛ばしてしまいがちだ。しかし、ITに限らず技術系の英文では、前提や条件を土台にし、その上にブロックを積んでいくように議論を展開するものが多い。だから、前提や条件を踏まえないまま本文を読んで、書いてあることを試しても、上手くいかずに時間ばかりが経過してしまう。結局は「急がば回れ」なのである。
![]() |
---|
Illustration:Aiko Yamamoto

この連載の記事
-
第49回
ビジネス
内部統制周辺で見かける「assessment」 -
第48回
ビジネス
エンジニアがデータをやり取りするときの重要単語 -
第47回
ビジネス
文脈で対象が異なる「peripherals」 -
第46回
ビジネス
IT英語で登場する「redundancy」は、いい意味? 悪い意味? -
第45回
ビジネス
帰ってきたIT英語~layoutを表現する単語たち~ -
第44回
ビジネス
IT業界の「diversity」を今から理解しておこう -
第43回
ビジネス
「query」が期待するものは何? -
第42回
ビジネス
ITでは、なぜ「バーチャル」が多用されるのか -
第41回
ビジネス
技術文書に頻出する「foobar」って何だ? -
第40回
ビジネス
ウワサがウワサを呼ぶソーシャルネットワーク・ワード「buzzword」って何だ!? -
第39回
ビジネス
いま流行りの「Gadget」が映し出すITトレンドとは? - この連載の一覧へ