年功序列社会が崩壊し、1円起業が恒常化した現在、「起業」という働き方への注目が高まっています。SEとして、会社に残るのも一つの道ですが、起業という選択肢もあるのです。では、どうすれば起業できるのか。起業したその先は何を目指していけばいいのか。本連載では、SEのための起業成功法について、考えていきます。
起業とは雇用されない働き方
IT業界で「起業」というと、まずベンチャー企業の“起業”を思い受かべる人は多いのではないでしょうか。そもそもこの「ベンチャー」という言葉は、英語の直訳だと、「冒険、投機」であり、「危険を冒して行なうこと」という意味もあります。また、日本で言う「ベンチャー企業」は英語で「スモールビジネス」と訳されます。このスモールは「小さい」という意味とともに「独立している」というニュアンスが含まれています。
つまり起業とは、本来“雇用されない”働き方、生き方を指していうのです。
私は職業柄、大学で「起業論」の講義を依頼されることがあります。大学を卒業して企業へ就職をするだけではなく、卒業後の選択肢のひとつに「起業」もあるという、大学側から学生へのメッセージとして、このような講義が行なわれるようになったと私は受け止めています。それもこの2,3年、かなり数多くの講義を担当させていただくこととなりました。
起業に対する注目は、社会の潮流も影響しています。2007年4月以降、団塊世代が大量定年を迎え、少子高齢化も歯止めがきかない中、日本の産業構造は大きな変化に揺らいでいます。また、加えて国際競争の激化に伴い、日本は必ずしも経済的な優位性が保てなくなりつつもあるのです。このように閉塞感のある社会背景の中、「新しい社会への活力」の期待として、起業が求められていると考えられるでしょう。
また、起業への追い風となったのは、2006年に会社法が変わったこともあります。最低資本金規制が撤廃され、これにより有限会社が株式会社に統合され、1円からでも会社設立が可能になりました。
これらの要素が相まって、従来型の「雇用型社会」から「起業型社会」へと価値観がシフトしつつあるのです。
拡大ベンチャーかマイクロビジネスか?
さて、前述のように私が大学で「起業論」の講義をするときに、必ず紹介するのが、『はじめの一歩を踏み出そう』(マイケル・E・ガーバー著)という本です。この本は、『七つの習慣 成功には原則があった』(スティーブン・R・コヴィー著)や、『ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則 』(ジェームズ・C. コリンズ著)を超えて、アメリカの成長企業のCEO(最高経営責任者) がこぞって絶賛した、「起業論」のいわばバイブル的な本と言えます。
この本では、多くのスモールビジネスがうまくいかない理由を、
1.「起業家」(変化を好む理想主義者)
2.「マネジャー」(管理が得意な現実主義者)
3.「職人」(手に職をもった個人主義者)
の3つの人格から分析し、さまざまな局面で、いかにこのバランスをとることが大切かを説いています。
特に興味深いのが、以下のような起業家と職人の視点の対比です。
- ・起業家は「事業が成功するにはどうするべきか?」を考え、職人は「何の仕事をするべきか?」を考える。
- ・起業家にとって、会社とは「顧客に価値を提供する場所」である。その結果、利益がもたらされる。職人にとって、会社とは「自己満足のために好きな仕事をする場所」である。その結果、収入がもたらされる。
- ・起業家は、最初に「会社の将来像を確立したうえで、それに近づくために、現状を変えようとする」が、職人は、「不確実な将来に不安を抱きながらも、現状が維持されることを願う」。
- ・起業家は、まず「事業の全体像を考えてから、それを構成する部品を考える」。しかし、職人は、「事業を構成する部品を考えることから始まり、最後に全体像がつくられる」。
- ・起業家は「自分の描く将来像から逆算して現在の自分の姿を決める」が、職人は「現在の自分を基準に将来の自分の姿を決める」。
ところでSEとして働き、将来的に起業を目指している皆さんは、どのような起業家の特性を目指すべきなのでしょうか? 私は、自分の「職人」的な価値(スキル)に自信があれば、あえてハイリスク・ハイリターンな拡大ベンチャーを志向する必要はないと考えます。つまりマイクロビジネス(=SOHO)と言われるような選択肢でも、SEの起業のあり方としては、十分な幸福が得られると思うのです。職人的な技がキラリと光る、いわば身の丈起業。そんな生き方があってもいいはずです。
今の時代だからこそお勧めな起業テクニック 「Web2.0」時代は“身の丈起業”を可能にする
この身の丈起業の考え方にはWeb2.0的発想が大きく影響します。
たとえばWeb2.0の「マッシュアップ」という考え方。これは、複数の異なる提供元の技術やコンテンツを複合させて、新しいサービスを形作ることを言います。ユーザーつまり自分たちが、使いやすいように情報を加工し、また自ら情報を発信することで、Webというプラットフォームの主導権をユーザー側にシフトさせるのです。これはCGM(注1)の台頭をみるとよく理解できます。
つまり、Web2.0時代における今だからこそ、低コスト・短時間の技術と情報をマッシュアップし、ユーザー1人で新しい価値のサービスを生むことは十分可能ということです。SEには、1人でも新しいビジネス始めるチャンスがあるというわけです。
ぜひ、“身の丈”をキーワードに新サービスを目指し、10年先も20年先も確実に生き残ることのできる“起業”のあり方を検討してみてください。
注1:CGM(Consumer Generated Media)
Q&Aコミュニティ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、ブログなど、インターネットなどを使用して消費者がコンテンツを生成していくメディアをいう。
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