大きな経済の循環の中にいる、企業の知性
2001年、藤さんはネットワークエンジニアとして大手システム開発会社に入社する。そこでは接客サービス業で身につけた片言英語と、取得した2つのIT資格が生かせる外資系の会社へ出向となる。藤さんは持ち前の明るさでITスキルだけでなく、英語力とコミュニケーション能力を磨いていき、人脈も広げていった。
「業務の中でITスキルを身に付けていっただけでなく、出向先の総務の仕事をする人と仲良くなり、食事に行ったり英語を教えてもらったりしていました。外国人の社員の人にはフランクな人と見られていたようですね。実はそのとき昼間の仕事と並行して、夜にエンジニア養成スクールの講師の仕事もしていました。スクールの方針に沿って教えているうちに、『自分だったらもっと別の教え方をする。事業としてもっと利益が出せる』と思うことがあり、起業を決意しました。失敗しても失うものはないし、それ以上に、自分ならできるはずだと感じていました。資格試験のときもそうでしたが、先にゴールを決めてそれに向かって突き進むのが自分の仕事のスタイルなのです」
藤さんの設立した会社は現在、教育事業とシステム開発、人材派遣業務を3本柱としている。いずれの事業も仕事の本質は人材であると考え、教育に力を注いでいる。藤さんは、人を育てることが自分たちに課せられた使命であるとも考えていて、人を育てることが直接、間接的に会社に利益をもたらすと強調する。
「自分の会社はとてもちっぽけな存在ですが、大きな経済の中にいると言えます。自社の利益だけを考えていたら、その経済の循環からはじき出されてしまうでしょうね。確かに、儲かるためだけの会社を興すことはできると思います。でも、すぐに潰れてしまうでしょうね。起業してお金を稼ぐことは大切です。でも、そのお金は社会に循環させてこそ生きてくると考えています」
昔の口癖は、“金さえあれば”だった 本当に意味ある会社の利益とは
多くの経営者はキャッシュフローで苦労している。藤さんも起業前からお金で苦労している。藤さんは、仕事をしていくうえで大切だと考えていることは何だろうか。
「18から25歳のときの口癖は“金さえあれば”でした。会社を興す前はお金が大切だと考えていたのでしょう。でも今は違います。一番大切なことは、自分の中では上を目指す強い意志、仕事をするうえでは相手の立場に立って物事を考える姿勢だと思います。相手の立場になるというのは、社会の視点に立つと言うことです。会社は個人のものでなく、社会のものですから公共性は非常に大切であると考えています」
また、藤さんは人が大切だと強調する。会社を維持運営していくうえでも、人脈が大切になってくる。藤さんは人脈についてどう考えているのだろうか。
「私は内向的だと思います。でも仕事という視点に立ち、明確な目的があると社交的になっているようです。人脈は仕事をしていくためにはとても大切なことですからね。当社が運営する学校の卒業生がどこかで仕事をし、その卒業生が当社に仕事を紹介するというのが望ましい将来の姿ですね。人脈には、結局、好きな人が好きな人を紹介していくという図式があるのでしょう。私が人を育てて人脈を作る、その人脈の循環の小さなサイクルを、もっと大きなサイクルにしたいと考えています」
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