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石井裕の“デジタルの感触” 第4回

石井裕の“デジタルの感触”

タンジブル・ビット:ビットとアトムを融合する新しいUI

2007年08月06日 17時08分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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GUIが越えられない仮想と現実の壁


「Tangible Bits(タンジブル・ビット)」とは何か?

 今回は、この連載で幾度となく登場しているタンジブル・ビットの定義と特徴をあらためて紹介しようと思う。難しいところもあるだろうが、少々お付き合いいただきたい。

「仮想」と呼ばれるオンライン・デジタルの世界は、パソコンや携帯電話の遍在化、常時オンのネットワーク接続によって「現実」の日常生活に深く食い込んでいる。その結果、「現実」と対比してあえて「仮想」と呼んだ二極対立的な世界観は消滅しつつある。

 一方、オンライン・デジタルの世界(仮想)と物理世界(現実)との境界面に位置するユーザー・インターフェース(UI)という観点では、依然はっきりとした不連続面が存在する。

 仮想世界は、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)によって規定されたピクセル主体の世界だ。スクリーンという四角いガラス窓からしかのぞくことができないものの、変幻自在なピクセルに基づいたGUIは多様な機能を視覚的にシミュレートできる汎用性を備えており、それがGUIの大きな成功の要因となった。しかし、マウスやキーボードといったリモコンでしか操作できないため、ユーザーの身体を情報から引き離し、オンライン・デジタルと物理世界との間に見えない壁を築いてしまった。



TUIというパラダイム


 タンジブル・ビット※1は、GUIと異なる新しいユーザー・インターフェースをデザインするためのパラダイムである。GUIのように物理世界を「メタファー」としてグラフィカルにシミュレートするのではなく、物理世界そのものをインタフェースに変えることが、その究極の目的だ。

※1 「タンジブル・ビット」の理論的なアプローチについては、'97年のCHIで発表した石井/ウルマーによる次の論文を参照のこと:Ishii, H. and Ullmer, B., Tangible Bits: Towards Seamless Interfaces between People, Bits and Atoms, in Proceedings of Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI '97), (Atlanta, March 1997), ACM Press, pp. 234-241.

 タンジブル・ビットの基本的なアイデアは、情報に物理的表現を与え、ユーザーが身体を使って情報を直接操作可能にすることにある。物理的実体を与えた情報に直接触れて、感知・操作できるようにするという目的から、これを「Tangible User Interface(TUI、タンジブル・ユーザー・インターフェース)」と呼ぶ。「tangible」とは、「触れて感知できる実体がある」という意味だ。


(次ページに続く)

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