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石井裕の“デジタルの感触” 第3回

石井裕の“デジタルの感触”

混迷するユビキタスの未来

2007年07月29日 21時11分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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マーク・ワイザーからのメール


 本人自身がユビキタス・コンピューティングについての誤解を最も気にかけていた。'97年1月26日に「Tangible Bits」(タンジブル・ビット)の論文※2を読んだワイザーから、私が受け取ったメールの一部をここに紹介する。

※2 Ishii, H. and Ullmer, B., Tangible Bits: Towards Seamless Interfaces between People, Bits and Atoms, in Proceedings of Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI '97), (Atlanta, March 1997), ACM Press, pp. 234-241.

※3最近、あなたがCHI '97で発表した論文を読みました。「タンジブル・ビット」! 素晴らしい研究です! 思うに、こういった研究が21世紀のテクノロジーの展望を描き出していくのではないでしょうか。

ひとつお願いがあります。テニュアを得た元教授として、それまでのすべての研究から自身の研究を際立たせる必要があることを、よく理解しています。また、私に対する献辞にも、とても感謝しています。ありがとう!

私のお願いは、ユビキタス・コンピューティングについて、その名称から生じた誤解が広まるのを防ぐこと、これをあなたに手伝ってほしいのです。ユビキタス・コンピューティングは、「コンピューター」をユビキタスにすることだけでは決してありません。これは、あなたの研究のように、コンピューターをメディアとして環境に溶け込ませるということだったのです。

【中略】

誤解を招きやすいため、私はユビキタス・コンピューティングという言い方をやめようとしてきました。しかし、その後も幾度にわたってこの言葉が重くのしかかってきます。そこで、Things That Thinkなどを含み、私がかかわっているさまざまな仕事すべての総称として、これを使うようにしていました。拡張現実という言葉をしばらく使ったこともありますが、これもまた異なった意味合いが生み出されてしまいました。私はテーマとしてカーム・テクノロジーという言葉を用い始めましたが、これは研究プロジェクトというよりも、その目的にふさわしいものです。「タンジブル・ビット」はとても素晴らしく、総称にふさわしいかもしれませんが、そうするとあなたの研究プロジェクトを示す名前ではなくなってしまいます!

我々がなにかひとつの共通な事柄を掲げ、その下でそれぞれの差異を規定していけば、みんなにとって得になるのではないでしょうか。もっとも、それを何と呼ぶかに苦心するでしょうが。

とにかく、これはすばらしい仕事です。近いうちにMITを訪問して話をするのを楽しみにしています。

─マーク

※3 原文は次の通り:
Date: Sun, 26 Jan 1997 23:34:10 PST
To: ishii@media.mit.edu, ullmer@media.mit.edu
From: Mark Weiser <weiser@xerox.com>
Subject: "Tangible Bits"

Dear Hiroshi and Brygg,

I recently had a chance to read your CHI 97 paper "Tangible Bits"! Great work! In my opinion this is the kind of work that will characterize the technological landscape in the twenty-first century.

I do have a request. As a former professor with tenure I well understand the need to distinguish one's work from all that comes before. And I very much appreciate your kind acknowledgement to me. Thanks!
My request is that you help me stop the spread of misunderstanding of ubiquitous computing based simply on its name. Ubicomp was never just about making "computers" ubiquitous. It was always, like your work, about awakening computation mediation into the environment. .

"snip"

I tried to stop using ubiquitous computing because of its misleading implication, but it keeps cropping up again, so I keep returning to it as my umbrella name for lots of work, including Things That Think. Augmented reality was in use for awhile, but again got balkanized in meaning. I have started to talk about Calm Technology as a theme, but it better names a goal than a research project. "Tangible Bits" is very nice, and maybe could serve as an overall umbrella, but then you might lose it as the name of your research project!
I think we would all benefit if we could have an allegiance to some one common thing, and define our differences within that. But we struggle with what to call that allegiance.

Anyway, great work, and I hope to visit soon and have some good chats.

-mark
(Dr.) Mark Weiser
Chief Technologist, Xerox PARC


(次ページに続く)

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