田中麗奈や堺 正章ら
“夕凪の街 桜の国”の出演者が舞台挨拶
オープニングセレモニーに続いては、オープニング招待作品として佐々部清監督の最新作“夕凪の街 桜の国”の舞台挨拶が行なわれた。本作は、SKIPシティ内にオープンセットを組んでデジタル撮影された、まさにこの映画祭を象徴する作品でもある。
“夕凪の街 桜の国”は、第8回文化庁メディア芸術祭において大賞、手塚治虫文化賞新生賞などを受賞した、こうの史代氏の同名マンガ作品“夕凪の街桜の国”((株)双葉社刊)の映画化作品。原作は韓国、フランス、アメリカ、オーストラリアなど世界10ヵ国で出版され、海外からも絶賛された作品。原作同様、今回の映画化にも注目が集まっており、平和そして命の尊さ、生きることの喜びを鮮やかに描く感動の物語だ。監督は第28回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した“半落ち”や“チルソクの夏”、“出口のない海”などで、家族を見つめ直す作品を描き続ける佐々部 清監督。出演は田中麗奈さん、麻生久美子さん、吉沢 悠さん、中越典子さん、伊藤充則さん、金井勇太さん、藤村志保さん、堺 正章さんら。
ストーリーは、原爆投下から13年が経過し、原爆で生き残った平野皆実(麻生久美子)が母・フジ(藤村志保)とともに暮らす、復興が進む昭和33年の広島が舞台。そこで、生き残った罪悪感と目の前にある幸せの狭間に苦しむ皆実(みなみ)の姿を描く“夕凪の街”。平成19年の現在、定年退職した父、旭(堺 正章)の行動を心配し、父の後を追って広島にやってきた娘の七波(田中麗奈)が出会う、叔母・皆実をはじめとする家族や自分のルーツと向き合う“桜の国”。この時代の異なる2つのストーリーが絡み合いながら、登場人物の日常を通して生きる喜びが描かれ、昔も今も人々が平和を願う心はひとつであり、命の尊さが静かに語られる。
前半の“夕凪の街”ではVFXを駆使し、SKIPシティのオープンセットに再現した昭和33年当時のバラックの町並みや、埼玉県内の元荒川土手などで撮影されたシーンなどに、当時の広島を象徴する原爆ドームや整備されていない川の様子が見事に表現されている。2005年に公開されて大ヒットした邦画“ALWAYS 三丁目の夕日”以降、このところSF以外の通常のドラマにも効果的にVFXが使われることはが珍しくなくなったが、昭和の当時の姿、とりわけ本格的に広島の姿をVFXでリアルに描いたのは本作が初めてとなるだろう。 SKIPシティには現在の施設敷地よりさらに広い未開発街区があり、この広大な野原をオープンセットの用地として映画制作に用いており、“夕凪の街桜の国”に続いて、山田洋次監督作品の“母べぇ”が現在撮影されている。
ハープの生演奏がノスタルジーをさらに演出
思い入れを語る田中麗奈さんと吉沢 悠さん
舞台挨拶に先駆けてハープ奏者の内田奈緒さんが、この映画のテーマ曲となっている“ひとつの願い”を演奏した。内田さんは「ノスタルジーを感じるオルゴールようなリズムで、桜の花のような音色をイメージして演奏しました」と語った。続いて、佐々部監督、主演の田中麗奈さん、吉沢 悠さんが登壇し、舞台挨拶が行なわれた。
田中さんは「役づくりとして、両親と一緒に広島に行き、原爆ドームや資料館を見学し、何を感じたか話し合ったりしました。被爆二世を演じている事から、撮影している時に涙が出てしまうことが何度もありました」と本作への思い入れを語った。吉沢さんは「被爆二世の方にお目にかかって役作りしました。本作をご覧になって、平和や広島のメッセージを受け取ってもらえればそこが夕凪の街になり、共有してもらえれば、それが“桜の国”になると思います」と作品への思いを語った。
佐々部監督は「4回目の映画祭おめでとうございます。原作は、マンガは読まないので存じませんでしたが、オファーをいただき出会いました。初め読んだ時にはよくわかりませんでしたが、何度も読み返すうちに分かるようになりました。原爆への憤りを静かに訴えている新しい感じのマンガだと思いました」と原作への思いを語った。
さらに「この映画は、日本人が日本でしか撮れない映画です。スタッフにもキャストにもその誇りを持って欲しいと伝えました。そして、僕は誇りを持って上映したいと考えています。大作映画がたくさん公開される夏休みの公開ですが、この映画は夏だからこそ、公開しなければと思います。みなさんにはぜひ、応援団になっていただければと思います」と、原爆投下の夏、8月に公開する意義を強調していた。
映画祭での上映には終映後の拍手はつきものだが、会場からおこった拍手には一瞬の“ため”のようなものがあった。会場が明るくなると、赤く目を腫らして席を立てずにいる来場者も多く見られた。